【書評】『ママは殺人犯じゃない 冤罪・東住吉事件』/青木惠子・著/インパクト出版会/1800円+税
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
平凡な主婦として家族4人で暮らしていた著者が、突如、冤罪被害者となったのは、火災で自宅が全焼し、小学生だった長女が死亡したことにはじまる。
火災原因は、のちに、自宅一階の車庫に駐めていた軽ワゴン車から漏れたガソリンが、風呂釜の種火に引火したものとわかるが、当初、警察は車からガソリンが漏れるわけがない。長女に掛けた保険金を詐取する目的で、著者と内縁の夫が共謀して放火したと見立てて捜査に着手。
密室での長時間の取り調べで、内縁の夫は共謀を「全部認めているぞ」、お前も「『認めろ』と大声で怒鳴ったり、机を叩いたり」されるなか、「わけもわからずに、怒鳴られる恐怖感」から逃れるため、虚偽の自白をしてしまったのである。
この自白を引き継いだ検察官は、「あなたを完璧に有罪と思って起訴するわけではありません」「無実なら、弁護士さんと頑張って下さい」と、まるでゲームをするかのように言い放ち、無期懲役を求刑した。
本来、公正に審理すべき裁判官にしても、「自白偏重と検察妄信」に凝り固まっていて、著者の主張にはまったく耳を傾けなかった。ひたすら、捜査機関が描いたストーリーのままに、有罪判決を言い渡し、21年もの長きにわたり自由を奪われてしまったのである。