これまで「年齢も年齢だから……」と片付けがちだった“耳の異変”。実は、そのちょっとした異変が、より重大な疾患につながっていることが明らかになってきた──。歳を重ねると生じる「加齢性難聴」には、こんな予兆があるという。
「加齢性難聴は、音を感じ取る内耳の有毛細胞や、聴覚の神経に障害が生じる『感音難聴』の一種。このタイプの特徴は言葉の聞き分けが難しくなることで、特に高い音や子音が聞き取りにくくなります」(きたにし耳鼻咽喉科の北西剛医師)
子供が多く集まる場所で孫のカン高い声が聞き分けられなかったり、「加藤」と「佐藤」、「1時」と「7時」、「貸して」と「買って」などを聞き間違えるのだ。
感音難聴には、複数の人が同時に喋る声が聞き取りにくくなる特徴もある。外出先の混み合ったレストランで空耳が増えたり、多くの出演者がいるバラエティ番組で何を話しているかわからなくなったら、感音難聴の疑いが濃厚だ。
今年7月、英国の医学誌『ランセット』に発表された論文は、「中年期(45~65歳)の聴力低下」を認知症の最も大きなリスク要因に挙げた。さらに「中年期に耳が悪くなると、9~17年後に認知症が増える」と警鐘を鳴らしている。
では、なぜ耳の異変が認知症につながるのか。くどうちあき脳神経外科クリニック院長の工藤千秋医師は、「脳の刺激低下が大きな要因」と指摘する。
「耳の聞こえが悪くなると、脳内で聴覚を処理する部分でもある側頭葉への刺激が少なくなります。記憶を司る側頭葉への刺激が減ると、脳の活動量が減少して記憶力も低下する。これが難聴起因の認知症発生メカニズムと考えられます」
聞こえが悪くなり、他人との会話が減ることも認知症の大きな要因となる。