主に高齢者宅へ電話をかけ、離れて暮らす家族のふりをして多額の金を振り込ませる「振り込め詐欺」は、2000年代に入って急増した。警察と金融機関が協力して詳しい手口を広く知らしめ、振り込め犯の取り締まりも厳しく行われているが、特殊詐欺撲滅にはほど遠い。特殊詐欺が続けられるのは、詐欺犯たちが犯行を正当化し罪悪感を消している背景があった。ライターの森鷹久氏が、その奇妙な理屈についてリポートする。
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「金持ちで余裕のある奴から、奴らが沈まないくらいしか盗りませんよ」
こううそぶくのは、かつてオレオレ詐欺(特殊詐欺)に参画し、一千万円以上の収入を得た経験がある男性・松岡氏(仮名)だ。未だ減る傾向にないオレオレ詐欺の被害だが、その理由は、オレオレ詐欺に手を染める連中が振りかざす驚くべき身勝手な持論に透けて見えてくる。
松岡氏は、部下十数名を率いる「かけ子」(※電話をかけてだます役)チームのトップだった。一般的な会社組織でいえば「部長職」で、配下には課長や係長、主任に相当する部下もいた。十数名の部下のうち半数以上になんらかの「肩書き」を与えていたのは、上昇志向の強い彼らのモチベーションをさらに上げる為だった。
「連中の上昇志向が強い理由は、皆ハングリーなんです。貧乏家庭の出身者が多く、とにかくカネが欲しい。小銭の為にリーマン(会社員)はやってられないが、デカいカネの為には真面目に働くことを厭わない。朝礼や終礼は必ず定刻に全員参加。日報つけたり統計を欠かさず取ったり、みんな真面目でした。だから収益もガンガン右肩上がり」(松岡氏)
真面目にやっていくら収益をあげようと、それは単なる犯罪行為でしかない。松岡氏が徹底的に行ったのは、部下に「被害者意識」を刷り込ませることだ。これによって、部下は犯罪を犯罪と思わなくなり、仕事能率は確実にアップしたのだという。
「格差社会でしょう。年寄りは裕福、若者は貧乏。俺らは年金すらもらえない。ともなれば、溜め込んでる金持ちからいくらか取ったところで何が悪いのかと。死に金を俺らが活かす、貧乏人に再分配する。現代版の”ネズミ小僧”だと本気で信じている連中もいて、月に100万稼ぐのに、実家に70万仕送りしているやつもいました。中には有名大卒の経歴を持つ手下もいた。こっちが刷り込まなくても、すでに弱者意識を持っている若者ですよね」(松岡氏)
今年10月、オレオレ詐欺グループのメンバーだった息子から、現金400万円を受け取ったとして宮崎市在住のパート従業員の女が組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)容疑で逮捕された。息子は全国で12億円以上をだまし取っていた特殊詐欺グループのメンバーとみられているが、母親は「どういう金か知らなかった」と供述している。オレオレ詐欺に手を染めた経験のある別の男性・鈴木氏は、この息子を「孝行息子」と評する。