かつて福岡県で起きた4人殺害事件は、被告である家族4人全員に死刑判決が下った衝撃的な事件だった。その死刑囚一家の次男による獄中手記をモチーフにした映画『全員死刑』(間宮祥太朗主演)が11月18日(土)に公開される。本物の不良による迫力ある暴力描写の自主映画が評判を呼んでいた小林勇貴監督にとって、これが商業作品第一作となる。初めてプロの役者と仕事をして感じたこと、アウトローによる凄惨な事件を、どうやってエンターテインメントに昇華していったのかについて聞いた。
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──商業デビュー作品となった『全員死刑』では、初めてプロの役者さんたちと映画をつくっていくことになりました。自主作品のときと、どんな違いがあったのでしょうか?
小林勇貴(以下、小林):これまで不良たちと映画を撮りながら、できないと言われているものに触れたことについてはすごく自信があります。その一方で、役者さんから「本物の不良に(暴力の演技を)やられちゃうと、本物には勝てないからね」と言われたことがありました。いや、そんなはずはない。プロの役者さんに演じてもらったら、もっと素晴らしくなるはずだと証明したかった。その気持ちに間宮君ものってくれて、応える以上のことをしてくれた。本当にいいオトコだなと思います。
──主演の間宮さんは青春映画ヒロインの相手役や美少年役のイメージが強くあります。なかには腹黒い役回りもありましたが、今作の主人公、タカノリは腹黒どころか鬼畜なチンピラです。本物の不良ではない間宮さんがアウトロー役と聞いて、とても驚きました。
小林:間宮君のチンピラ役は、まったく心配ないです。これまで自主映画を撮ってきた静岡の不良たちからも大絶賛で、お墨付きです。仮編集のとき彼らにも見てもらったら、間宮君のことを「この兄ィ、すごい気合い入ってますね!」「おっかねえ、うぉー!!」と本気の感想が聞けて、すごく嬉しかった。そして「勇貴くん、いいオトコつかまえましたねえ」とも言われて、ものすごく幸せです。
──商業映画になると制約が多くなるという意見もありますが、まったく違う体験だったようですね。
小林:楽しくてしょうがなかったです。商業映画いいですね、やみつきになりますね! もう、面白くて仕方なかったです。プロの役者さんとの撮影は、すごく刺激的な体験でした。不良の子たちの場合は、一発でしか撮れないチャレンジ的なものならともかく、演技が介在する部分でテイクを重ねたり段取りを何回もやっていると、飽きてきて質が落ちることがありました。でも、役者さんたちは逆に、回数を重ねるごとに練度が上がり、イメージしたモノに近づいていってくれる。夢のような作業でした。
撮影そのものは2週間くらいで大変な日もありましたが、その大変の意味が全然、違う。これまでだと出演者が現場に来なかったり、急に逮捕されたり、事故に巻き込まれたりなど色々ありましたから。旧車會の親分がいきなり撮影現場にあらわれて「説明しろよ」と言いがかりをつけるのを、冷や汗ダラダラ流しながら「帰ってください」と押し問答したりしていたので(笑)
──迫力ある暴力描写と同時に、思わず笑っちゃうような様子を必ず描いてきましたが、今回も同じように、暴力と笑いが同居していますね。
小林:黒い笑いはあるべきだと思うので、意図してそうしています。育った場所が治安がよいとは言えなかったので、暴力沙汰に出くわすことがときどきありました。そしてなぜか、そこには笑ってしまうこともセットで起きるという実感を得ています。緊迫の瞬間なのに、これはジョークだよね、ということが起きてしまう。暴力と笑いが同時に起きるのは自然の成り立ち、自然現象なんだと思います。