英語で「波が押し寄せる」という意味である「サージ」を使用した新概念「血圧サージ」が医学界で注目を浴びている。血圧が正常値の範囲内にある人であっても、瞬間的に180mmHgほどまで急上昇することを指す血圧サージが、特に起こりやすいとされるのが「朝」だ。1948年から約5000人の患者を追跡した米国のフラミンガム研究でも、脳卒中が最も発症しやすい時間帯は午前8時から正午までの間とされている。東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巖医師が説明する。
「人間の血管や内臓は自律神経によって調整されているが、その自律神経は心身を緊張・興奮させて活動的にする『交感神経』と、心身をリラックスさせて安静に導く『副交感神経』に分けられる。
夜寝ている間は副交感神経優位で血圧は低く保たれていますが、朝に目が覚めると、体を活動的にするため交感神経が優位になる。すると体が緊張状態になって心拍数が上がり、血管が収縮して血圧が上昇します。このタイミングでさらに血圧を上昇させる要因が発生すると動脈硬化が急速に進む可能性がある」
通常でも起床時には血圧が20~30mmHg上昇する。これに血圧上昇の危険因子が加われば、致命的な事態につながる怖れがある。
危険因子として大きいのが「寒さ」だ。2016年の人口動態統計によれば、脳血管疾患の死者が最も多いのは12月と1月である。「朝」と「寒さ」が血圧サージを引き起こした例として、南三陸病院副院長の西澤匡史医師はこんなケースを紹介した。
71歳の男性は10年前から血圧を測り続けていた。数値の平均は上が126mmHgで下が98mmHg。ずっと平常値を超えることはなかった。しかしある寒い朝、ゴミ出しを終えて朝食を食べようとしたら、指先が震えて箸や茶碗が持てない。診断を受けると軽度の脳梗塞だったという。東京女子医科大学東医療センター内科教授の渡辺尚彦・医師が指摘する。