消費者の節約志向や中食需要の高まりによって苦戦が続く外食業界だが、その中でも好調をキープしているのが「とんかつ・かつ丼」の専門店である。
市場調査会社の富士経済が10月24日に発表した外食産業の成長業態トップ10で見事1位に輝いたのも、とんかつ・かつ丼で、2017年見込みの市場規模は540億円。前年比120%のプラス成長が予想されている。
といっても、このカテゴリーには「とんかつ和幸」や「とんかつ濱かつ」、「さぼてん」、「まい泉」など客単価1000円以上で、料理が出てくるまでに時間のかかる店は含まれていない。客単価は400円~という低価格、そして提供時間は概ね5分以下という“ファストフード(FF)形態”のとんかつ店が急成長しているのだ。
FFとんかつチェーンのトップを独走するのは、新潟県三条市を本拠にホームセンターなどを手掛ける企業(アークランドサカモト)が親会社の「かつや」。1998年に1号店を出店以降、着実に多店舗化やフランチャイズ化を進め、いまでは海外を含めて400店弱の規模にまで拡大した。
だが、同社の外食事業はもともと、とんかつではなく「天ぷら・天丼」で勝負をかけようとしていたという。ジャーナリストの中村芳平氏がいう。
「天ぷらは揚げる作業が複雑で、店を増やすとオペレーションや料理の品質が安定的に保てません。そこで同社は特注のオートフライヤーを導入して天ぷらの専門店を立ち上げたのですが、当時すでに『てんや』がオートフライヤーによる標準化でチェーン展開を進めていて、まともに戦っても勝ち目がない。そこで、とんかつに舵を切ったというわけです」
とんかつ業界も「和幸」や「さぼてん」など有名店が続々と店舗数を増やしていたが、「かつや」はメインのかつ丼の値段を大手の半額である490円(税抜き)に定め、ローコストを武器にした低価格戦略とスピーディーな調理で、既存のとんかつ店の客を奪っていく。
「とんかつは勝負事の前にゲン担ぎで食べるなど、“ハレの食事”として贅沢なイメージがありましたが、『かつや』の出現によって、忙しくて外食代も限られている学生やサラリーマンなどが気軽に通える店として認知されていきました。
もちろん味も安かろう悪かろうではありません。品質の良い豚肉をアメリカから毎日1トン単位で大量に輸入する仕組みを整え、各店共通のレシピもしっかりしています。そのため、1000円以上のとんかつ店に引けをとらない肉の味や衣のサクサク感が根強い人気となっています」(前出・中村氏)