【書評】『チャヴ 弱者を敵視する社会』/オーウェン・ジョーンズ・著 依田卓巳・訳/海と月社/2400円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
「右派のポピュリストがすでに労働者階級コミュニティに入りこんでいる理由は、〇〇党がとりわけ住宅問題、低賃金、仕事の不安定といったさまざまな労働者階級の問題に応えなくなったからだ。(中略)以前は当たりまえのように〇〇党を支持していた多くの人にとって、〇〇党は富裕層や巨大企業の味方になったように見える」
この「〇〇」にあてはまるのは何か、そしてこれはどこの国の話か。「民主党、アメリカの話?」「いや、民進党、日本のことだろう」といった声が聞こえてきそうだが、正解は「労働党、イギリス」であり、これはまだ三十代のイギリス人著者のデビュー作である本書から引用した一節なのだ。
タイトルの「チャヴ」とは、若者を中心とした低所得の労働者のネガティブな俗称。現在、イギリスでは彼らを「偽物のバーバリーを着た乱暴者」と蔑み、護身術のスクールには「チャヴ撃退クラス」までがあるのだという。
もともと階層社会のイギリスだが、格差は広がる一方で、一度いわゆる下流に転落するとはい上がるのはむずかしくなる。そして右派政党は、彼らのその不満や怒りを増加する移民に向けさせ、「差別されている労働者が移民を差別する」という地獄のような構図が生まれる。それを述べたのが冒頭の部分だ。「日本も同じだ」と感心してばかりはいられない。このような状況が続くと分断が進み、結局は社会全体が衰退に向かうのは間違いない。