高齢になるとあちこち弱ってくる。大きな病気以外でも、腰や膝が痛くなったり、歯が悪くなったり、認知症の症状や血圧、血糖値のわずかな変化もいちいち気になる。
とはいえ、高齢者の体のことがよくわからない世代の人々は、「まあ、年だから仕方がないかも。病院に駆け込むようなことではないのかな? でも…」と、迷うのだ。
そこで東京・世田谷区で認知症などの老年病治療、在宅医療にも尽力している、医療法人社団 創福会 ふくろうクリニック等々力院長の山口潔さんに、高齢者の心身の健康について聞いた。
「高齢になれば誰でも心身の機能が低下し、ストレスに対する抵抗力が弱まります。この状態をフレイルと呼び、放置すれば生活に支障が出たり介護が必要になったりし、死亡率も高まります」(以下「」内、山口さん)
また山口さんは、「加齢でフレイル状態になるのは、ある意味“自然なこと”」だと言う。
「ただ、近年、早い段階で医療などが適切に介入することで生活機能を維持したり、改善したり、あるいは健常な状態に戻る可能性も見出されてきたのです。そして最近では、できるだけ要介護状態にならないよう、フレイルを“維持や改善が見込まれる段階”と位置付けて、意識的な治療やケアをするよう促しています」
山口さんは認知症の専門医として、日々多くの認知症高齢者を診る。
「残念ながら認知症は、発症してしまってからでは治すことができません。でも認知症の要因と考えられている“脳にたまるゴミ”は40代頃からたまり始めることがわかっています。その段階から治療すれば、もっと有効な治療効果が得られるという研究が進んでいます。まだ治療効果が確定していない今、症状のない40代が認知症予防の受診をするのは無理としても、認知症予備軍と呼ばれる軽度認知障害(MCI)の段階で適切な治療を行えば、大幅な回復が期待できる場合もあるのです」
◆体、心、生活環境まで幅広くケアする
「具体的にフレイルは、
■身体的フレイル
筋肉が減る(サルコペニア)、筋肉・骨・関節などの運動器障害(ロコモティブ症候群)、口腔機能の低下(オーラルフレイル)
■心理的フレイル
軽度認知障害(MCI)、抑うつ、不安、意欲低下、精神的疲労感