音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の連載「落語の目利き」より、先頃、療養から復帰した10代目柳家小三治についてお届けする。
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9月19日、大田区民ホールアプリコ(東京・蒲田)の「柳家小三治一門会」に行った。病気療養から復帰して初めて観る小三治の高座だ。
「右手が思うように上がらないので、できない噺がある」と小三治が高座で口にしたのは今年6月。8月に入ると「今月下旬に首の手術を受けて療養する」と発表があり、9月6日の目黒での一門会と9月9日の千葉県松戸市での独演会は中止となった。
その発表の1週間後(8月13日)、有楽町のよみうりホールで「小三治一門会」があった。三三、〆治、三之助と3人の弟子が高座を務めた後、トリの小三治は病気の話題に触れることなく『死神』をみっちりと演じた。飄々とした死神のキャラが特徴的で、落語らしく軽やかに演じられる小三治版『死神』の楽しさはいつもどおり。体調不良の影響はまったく感じられなかった。
正式な病名は「変形性頸椎症」。8月21日に頸椎の手術を受けた小三治は3週間のリハビリを経て9月13日、岐阜県多治見市の落語会で高座復帰を果たし、『粗忽長屋』を演じたという。それに続いての高座が19日の蒲田。チケット発売時には「小三治独演会」だったが、復帰して間もないということで一門会に変更となった。
孫弟子の小八(喜多八の弟子)、弟子の〆治、一琴に続いて小三治がトリで登場。まずは「頸椎の手術で3週間ちょっと入院しまして」と報告。入院したのは京都の病院だったと明かすと、リハビリのために京都を歩き回ったという話題へ。