理論物理学者の益川敏英氏といえば、ノーベル賞受賞の喜びを取材にきた記者やカメラを前にして、万歳のポーズをとりながら「わぁ~、うれしい、なんてやらないよ」と笑顔で応対し、へそ曲がりな対応を繰り返した。その一方で、同時に受賞した南部陽一郎氏について「南部先生にとっていただいたことが一番うれしい」と涙ながらに話すなど、愛すべき人柄も伝わった。その益川氏と対談した、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、本物の科学者について考えた。
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2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英先生と先月、対談した。医師らが集まる会が主催した市民公開講座で、「今をどう生きる──子や孫が安心して暮らせる社会をどう残すか」というテーマで語り合った。
ノーベル賞受賞の連絡が入ったとき、「たいしてうれしくない」「科学をやっているのであって、ノーベル賞を目標にやってきたのではない」と言い切った益川先生。
骨太で、ひとクセある益川節が、対談でも炸裂。会場からはひっきりなしに笑いが起こった。ぼくもすっかり、その人柄に惚れてしまった。
益川先生は、「いちゃもんの益川」という異名をもつ。名古屋大学の坂田昌一研究室で研究者生活をスタートさせたのだが、そこではみんな「二つ名」を持っていた。
日本を代表する物理学者の坂田先生は、「屁理屈の坂田」を自称。議論好きだった益川先生は「いちゃもんの益川」と名乗った。