次々に夫や恋人が死んでいく──逮捕された女は“後妻業”や“毒婦”と呼ばれ、ついに裁判では極刑を言い渡されたが、事件はいまだ多くの謎を残したままだ。一見して“関西のおしゃべり好きなオバちゃん”は、なぜ戦後史に残る殺人事件を起こしたのか。約3年前の事件発覚時から独自取材を重ねてきたノンフィクションライター・小野一光氏が、法廷で明かされた新事実とともに解き明かす。
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交際あるいは結婚した高齢男性に対して、青酸化合物を服用させたとして、3件の殺人と1件の強盗殺人未遂罪に問われた筧千佐子被告(70)。
被害者は京都府の筧勇夫さん(75)、大阪府の本田正徳さん(71)、兵庫県の末広利明さん(79)、兵庫県の日置稔さん(75)で、起訴された4事件のいずれも有罪と認定され、11月7日、検察の求刑通り死刑判決が言い渡された。
千佐子は1946年11月に長崎県で生まれた。実母は未婚だったため、すぐに福岡県八幡市(現北九州市)の山下家に養女に出された。
成績の良かった千佐子は、名門の福岡県立東筑高校へ進学。その後、都市銀行に就職して、八幡支店で預金係の仕事に従事した。本人は九州大学への進学を希望したというが、養父に反対されたゆえの就職だった。とはいえ、都銀入行は地元では成功者といえる。しかし、周囲から羨まれていた生活を一変させたのが、最初の結婚だった。