“日本の宝”の行く末は野球ファンならずとも気になるところだろう。大谷翔平のMLB契約について、立教大学で「スポーツビジネス論~メジャーリーグの1兆円ビジネス」の教鞭をとる古内義明氏(立教大学非常勤講師)が解説する。
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北海道日本ハムファイターズがポスティング制度を使っての大谷翔平のメジャー移籍を容認し、大谷自らが先週の11月11日午前11時にメジャー挑戦を表明したことで、「大谷狂騒曲」は本格的な幕開けとなった。13日からフロリダ州のディズニーワールド内でゼネラルマネージャー(GM)会議が開催され、彼の話題で持ち切りだ。
今月9日のAP通信は、「今オフは従来通り日本の球団が譲渡金の上限を2000万ドル(約22億円)に設定し、支払う意思のある全てのメジャー球団が選手と交渉できる内容で合意」と打電。GM会議後のオーナー会議の正式承認を経る可能性が濃厚だったが、ここに来て、メジャーの選手会が、待ったをかけた。
そもそも2013年12月に成立した前制度は、今年5月から改定協議を進めてきたが10月31日で有効期間が終了していた。これまでMLBサイドからは、譲渡金について「契約金と総年俸、出来高払いを含めた総額の15%」とするA案と、「契約総額1億ドル(約110億円)未満なら15%、1億ドル以上なら一律2000万ドル」とするB案が示されていた。NPBサイドはA案を軸に検討を重ね、メジャー側の返答待ちという状況だったが、今回だけは1年限りの特例「大谷ルール」としての現状維持に傾きかけていた。
「全米最強の労働組合」と形容される選手会は、なぜ「大谷ルール」に反発の姿勢をとったのか。それには2つの理由がある。
第1点は、昨年に労使交渉の末に決めた「25歳ルール」の存在だ。これは、「25歳未満でプロリーグ所属6年未満のドラフト対象外の海外選手」に全て適用される。契約金や年俸総額に上限575万ドル(約6億5000万円)が設定され、メジャー契約は出来ないマイナー契約のみだ。23歳の若さで、今季2億7000万円の年俸を稼いだ大谷も当然対象者で、たとえメジャー契約に切り替わっても54万5000ドルの最低年俸しかもらえない。さらに、入団する球団が他のメジャーリーガー同様に6年間の保有権を持つため、巨額な大型契約は当分お預けだ。
MLB公式サイトによると、選手会は代理人であるネズ・バレロ氏に対して面談を要求し、ポスティング制度や25歳ルールの順守を確認し合うという。同ルール成立の背景には中南米系選手の年齢詐称や裏契約などが横行したため、日本も特別扱いせずに世界中のプロリーグ全体に対象者を広げた経緯があるだけに、選手会は大谷にも目を光らせている。