伊藤みどり、荒川静香、浅田真央、羽生結弦など数々のスターが誕生してきたこともあり、日本のフィギュアスケート人口は増えている。しかし、フィギュアといえば他のスポーツよりもお金がかかることで知られている。さらには、練習中は一日のほとんどを氷上で過ごすため、関係者同士の人間関係も時として大きな悩みになる。
特に練習や合宿、試合など、コーチとは長い時間を一緒に過ごすことが多い。そのため、もしコーチと合わなければ、心身は疲弊する。しかし、狭いスケート界で指導者を変えるのは一筋縄ではいかない。
小学生のとき全国大会で活躍し、五輪出場を目指す中学生のある女子選手は、指導者とのウマが合わず、やるせない心情を抱いていた。その苦しみを打ち明けてくれた。
「私と他の選手を比較するようなコーチの指導法は、正直疑問に感じるところも多いんです。これでは滑っていても楽しくありません。でも、ずっと教えてもらっている手前、先生を変えることはなかなかできないし、まわりはみんなライバルだから、他のコーチを紹介してもらうことも難しい。スケート自体は大好きだけれど、こんなにつらいのならばやめてしまいたいと思うこともあります」
コーチと選手の間だけでなく、選手間でも軋轢はある。小学生の娘を東京のスケート教室に通わせていた50代の父親が嘆く。
「まだ始めたばかりで、初心者用の安い靴を履いて滑っていた娘に、同じ教室の生徒が『まだそんなの履いているんだ』とチクリ。他にも、持ち物や服装などが周囲と違うと見下したような態度をとられることもありました。スケートを習う子たちは裕福な家庭の子が多いのでハイブランドの子供服を着て現れる。みじめな思いを何度もしたことを覚えています」
元五輪選手の渡部絵美さんも、いじめと闘いながら選手として大成していった1人。
「陰口を言われたり、スケートリンクを貸してもらえなかったりすることは日常茶飯事でした。スケート選手の命ともいえる靴や、踊るときにかける音楽が入ったテープを盗まれそうになったことも。だけどいじめられると、『なにくそ』と闘志がわいたし、『いじめられるほど注目されているんだ』と思うこともできた。いじめが私を強くしてくれたんです。それと同時に、リンクの上ではライバルでも、厳しい練習を共にして仲よくなる選手もいて、今でも交流があります」
◆万が一挫折したらどうなるのか…