【著者に訊け】平岡陽明氏/『イシマル書房 編集部』/角川春樹事務所/600円+税
〈根も葉もある嘘をつき、作品に生命を吹き込んで、読者の心を揺さぶるもの〉。
以上は『イシマル書房 編集部』に登場する元編集者〈岩田鉄夫〉の小説観だが、著者・平岡陽明氏の作品群にも、そのまま当てはまる。
「実はこれ、元ネタは俳人でもある角川春樹社長が、俳句の虚構性を語った言葉ですが、小説や映画にも通じる言葉だなあと思って。また社長は『最近の“独り出版社”は小説になる。若い人の起業を応援しない限り、世の中、暗いままだ』とも言っていて、前作に続き、お題は社長由来です」
主人公は大卒後、OLを経て、晴れて神田神保町の独立系出版社に採用された〈満島絢子〉。当面は見習いだが、社長の〈石丸周二〉や妻の〈美代〉、元暴走族の営業担当〈竜己〉はみな本好きで、小さくとも活気に溢れた理想の職場だった。
が、そんな同社を身売りの危機が襲い、石丸は最低15万部は売れる本を作り、株を買い戻す資金7千万円を1年で作る賭けに出る。それでなくても出版不況が叫ばれて久しい中、彼らの挑戦の行方はさていかに?
著者は「自他共に認める大のオジサン好き(笑い)」。前作『ライオンズ、1958。』では、往時の西鉄・野武士軍団や昔気質の親分らの心意気が小気味よく、本作でも石丸の窮地を救う大手出版社OBの岩田こそが、真の主役だったりする。