現在、生き方、死に方を綴って、ともにベストセラーとなっている著者2人が初対談を果たした。『安楽死で死なせて下さい』著者である脚本家の橋田壽賀子さん(92才)と『なんとめでたいご臨終』の著者、医師の小笠原文雄さん(69才)。それぞれの主張の相違点と共通点からは、私たちにこの先どんなことが待ち受けているのか、どんな心持ちで生きていけばいいのか、たくさんのヒントがあった。
橋田さんが8月に出版した『安楽死で死なせて下さい』をめぐり、賛否両論が巻き起こっている。安楽死とは、患者の同意のもと、意図的に人の生命を絶ったり、短縮したりする行為のこと。主に終末期の患者に対して使われるもので、「積極的安楽死」と「消極的安楽死」がある。致死薬を投与する前者は日本では認められていない。延命措置を施さず自然に死期を早める後者は「尊厳死」として、終末期のあり方の1つということで昨今認知されている。
改めて橋田さんにその真意と反響について尋ねると──。
橋田:死ぬなら安楽死がいいというのは、私の個人的な“つぶやき”でした。でも雑誌に載り、本になると公論になり、賛意や共感を示してくれる人、「安楽死は殺人ですよ」と忠告してくれたり、不快感を示したりする人も出てくる。「日本にも安楽死法案を!」という先頭に立つつもりはないので、ちょっと困っているところもあるんです。
小笠原:ぼくも拝読しましたが、医師として、いわゆる安楽死には複雑な思いを持っています。患者さんが望むから、患者さんを苦しみから解放してあげたいからと、薬剤で死に至らしめるのは、殺人行為であるだけではなく、医師として敗北ではないか、と思っているんです。
橋田:私が安楽死を望むのは、90才を過ぎ、足は痛いわ背中は痛いわ、もう体の衰えがひどいからです。夫が28年前に亡くなり、子供もおらず、親戚づきあいもしてこなかったので天涯孤独の身。例えば認知症になったり、半身不随で寝たきりになったりすると、下の世話まで人手を借りなければならない。人に迷惑をかけます。私はその前に死にたい。かつ、痛みの中では死にたくない。それで「安楽死したい」と言ってるんです。
小笠原:それは致死薬の注射を打ってということですか?
橋田:そうですね。麻酔薬か睡眠薬を打ってもらう。そうしたら眠っている間に逝けますでしょう。
小笠原:そういう注射は、緩和ケア病棟などで使われていて、がん末期の患者さんに施す「持続的深い鎮静」に似ています。その名の通り、これを打ったら患者さんはもう目覚めません。打った時点で「心の死」を迎え、数日以内に「肉体の死」を迎えるので、二度死ぬのです。
橋田:打ってから死ぬまで、その間意識はずっとないんでしょう?
小笠原:ありません。
橋田:それです。私はそうしてほしいんです。でもそれは、日本では殺人になってしまうんですよね。