マイホームは「持ち家」と「賃貸」のどちらがトクか──。これまでも散々繰り返されてきた議論だが、「特にこれからの時代は、リスクを背負ってまで買うべきではない」と断言するのは、住宅ジャーナリストの榊淳司氏だ。果たしてその根拠とは?
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私は、日本人には住宅についてのある強迫観念が存在していると考えている。それは、「一人前になったら家を買わなければならない」というものだ。仕事を持ち、結婚して、子どももできた一人前の職業人が、いつまでも賃貸住宅に住んでいると、世間から「どうして?」と思われる。
まわりを見渡してみよう。しっかり仕事をしていて、それなりの家庭を築いている人のほとんどは持ち家に住んでいないだろうか。そういった人で賃貸暮らしを続けているのは少数派である。
しかし、自宅というのは必ずしも購入しなければならないものなのか? 私は常々疑問に思っている。
住宅というのは、人が暮らすための器である。雨風をしのぎ、安寧と安眠の場所を提供する場所だ。できるだけ快適で、手足をゆったりと伸ばせて、圧迫感を抱かない程度の広さがあればよいのではないか。仮に一般人が宮殿のような住まいを手に入れても、維持管理に困るだけだ。
特に今の日本は人件費が高い。家事を手伝ってもらう人を雇う、というのはよほどの富裕層でない限りは不可能。そうなれば、一人当たり30平方メートルから50平方メートルくらいの広さがちょうどいい。掃除や手入れも行き届く。また4人くらいの家族で暮らすならせいぜい100平方メートルだ。それ以上になると、清潔な状態を維持するだけでも相当の労力を必要とする。
つまり、今の一般的な日本人の必要とする住まいは、さほど広くない。そして、この国では住宅自体が余っている。日本全体で13%余りの住宅が空き家になっていて、それは今後どんどん増えることが確実視されている。
さらに言えば、住宅は余るわけだから資産価値は低下していく可能性が高い。現に、日本全国で住宅を含めた不動産の価格は下落している。不動産の価格自体が上昇しているのは、東京や神奈川、京都や大阪、仙台、福岡といった特殊な事情がある一部の地域の、限られた場所だけである。その他の不動産はほとんどが、その資産価値を落としている。
中には、誰も所有したがらない不動産も多い。日本全国で所有者不明の土地が九州と同じ面積分だけあると言われている。
不思議なのは、こういう時代でも35年ローンを組んでマンションを買おうとしている人が多くいることだ。なぜそのようなリスキーな買い物をするのか、私には理解できない。
今後、日本では人口減少とさらなる少子高齢化が進む。移民政策を大転換でもしない限り、この国の住宅需要は減り続けるだけだ。絶対に増えない。増えないということは、その価値も高まらない、ということになる。
カンタンに言えば、不動産の資産価値は下がり続ける。もっとあからさまに言うと、35年ローンで購入したマンションの市場価格が購入時よりも上がる、ということはマイナス金利になったり、年率5%以上のインフレにでもならない限り起こり得ないのだ。