3横綱の不在、そして史上最低レベルの年間最多勝争いが象徴するように、取組には見るべきものが少なく土俵上に寒い空気が漂う九州場所だったが、会場の一室だけは常に多くの報道陣が群がっていた。
「貴乃花グループの作戦本部」──その部屋は、そう呼ばれた。
福岡国際センター1階に設けられた理事長や役員の控え室からは、最も離れた2階の片隅にある「巡業部」だ。巡業部長である貴乃花親方は場所中、カメラに囲まれながら昼過ぎに会場入りした後、結びの一番の少し前に会場を出るまでの間、この部屋に籠もった。
報道各社は部屋の前に若手記者を張り付けたが、貴乃花親方が部屋から出てくるのはトイレか煙草くらい。その間も口を真一文字に結んだままだった。
横綱・日馬富士による平幕・貴ノ岩への暴行事件の発覚以降、メディアは「貴乃花親方の不可解な行動」を強調して報じてきた。貴乃花親方が群がる報道陣に対し沈黙を貫いたことが、それに拍車をかけた。
だが、この「巡業部」の部屋には、貴乃花親方の行動を支持する親方衆が控えていた。
「現役時代は大横綱、親方としても堂々と土俵改革を訴える貴乃花親方の姿勢に共感するメンバーは一門を超えて存在し、とくに『巡業部』には貴乃花親方を尊敬する親方衆が多い。
阿武松親方(元関脇・益荒雄)、立浪親方(元小結・旭豊)は貴乃花一門だし、巡業部副部長の玉ノ井親方(元大関・栃東)や木瀬親方(元前頭・肥後ノ海)、立田川親方(元小結・豊真将)ら若手親方も、一貫してガチンコ相撲にこだわる貴乃花親方を慕っている。八角理事長(元横綱・北勝海)をはじめ執行部サイドは、この部屋のなかでのやり取りが気になって仕方なかったはずだ」(協会関係者)
だからこそ、協会はいち早く“巡業部解体”に動き出した。