選挙報道で「その他」として小さな紙面や画面にまとめて押し込められる候補者たちがいる。泡沫候補と呼ばれる彼らは、落選を繰り返してもまた、選挙に立候補する。フリーランスライターの畠山理仁氏は彼らを無頼系独立候補と呼び、その独自の戦いを『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)としてまとめ、2017年第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した。畠山氏に、独立候補たちとの出会いとその魅力について聞いた。
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──先日の衆議院議員選挙のときも多くの候補者が立候補しましたが、そのなかからどうやって無頼系独立候補を探すのですか?
畠山:1180人を一人で追いかけるのは物理的に無理なので、まず、公示日翌日に新聞を広げて立候補者一覧をマーカー片手にチェックしました。無所属をあらわす「無」という字だけを追って、「同じ無所属でもこの人は元民進党だから違う」といった具合に選んで独立系無所属の人をリストアップします。リストができあがったら、その人たちが立候補している地域の選挙管理委員会に電話をして、候補者の連絡先を教えてもらい住所録をつくります。そして、片っ端から電話をかけて選挙活動の予定を聞くんです。
それから、教えてもらった予定を見比べて、効率よく取材をして回るにはどうしたらいいかを考えます。鉄道マニアが、乗り継ぎをいかに効率よくやるか時刻表を見ながら考えますよね。それと同じようなことを選挙でやっています。というのも、なるべく多くの候補者に会えるようにするためです。国政選挙になると予定を組むのが大変ですが、楽しいですね。
──そもそも、選挙の取材にこだわるようになったきっかけは?
畠山:学生時代にライターの仕事を始めていたのですが、そのときお世話になっていた編集プロダクション代表から頼まれて、地方選挙の手伝いをしたのが強い関心をもつきっかけでした。街宣車に乗ったり、選挙事務所に刻々といろんな情報が集まり散っていく様子を見聞きしたりするのが面白かったですね。票の行方はもちろん、どこで怪文書がばらまかれたとか、その場に居合わせないと分からないことばかりでした。あのとき面白いと感じたことが選挙の原体験となっています。
──その体験は、すぐにライターとしての仕事にもつながったのでしょうか?
畠山:それがそうでもなくて(苦笑)。その後、『週刊プレイボーイ』でニュースのページを担当するようになってから、毎週の企画会議に選挙関連のものを何度も出しましたが、なかなか通りませんでした。取材をして誌面になるころには選挙が終わっているということもありますが、有名ではない誰だか分からない候補者を取材することばかり企画案にしていたからでしょう。
──なぜ、有名ではない候補者にこだわったのですか?
畠山:ネタ探しのために新聞をみると、毎週のように選挙の記事があることに気づきました。記事とはいっても一行情報のような、どこの選挙に誰が立候補しているのか記してあるだけの簡潔なものでした。でも、妙に気になることが書いてあるんです。
無所属の候補者には、肩書きから人物像を想像しづらい人が多い。たとえば革命家、ディレッタント、路上演奏家など。そういう気になる人を見つけると、他のニュースネタに混ぜて、この候補者に会いに行きたいという企画を会議に出していました。ほとんどその企画は通りませんでしたけれど。