国税局の“相続税マルサ”は忘れた頃に突然現われる。それは「○×税務署です。相続税の件でお宅にうかがいます」という1本の電話から始まる。「臨宅(りんたく)」と呼ばれる実地調査の通告で、故人が亡くなって2年ほど経ち、遺産相続の手続きがとっくに終わってから行なわれることが多い。
この「臨宅調査」はどのように行なわれるのか。
国税局のマルサ(査察部)と並ぶ調査部門で、「泣く子も黙る料調」と呼ばれる課税部資料調査課の課長を務めた税理士の松林優蔵氏が語る。
「臨宅調査は調査官2~3人で訪問して、概ね午前10時頃から始まる。午前中は故人の経歴や生前の財産運用の仕方、財産の保管場所について聞き取ります」
ヒアリングはいかにも雑談っぽい質問で行なわれる。
調査官「お亡くなりになったときの様子はどうでしたか?」
遺族「がんで長く入院して、とても痛がっていました」
何気ない質問だが、実は、一つ一つに狙いがある。病院に入院していれば、入院費は誰のお金で、誰が管理していたか。故人の“財布”で妻が支払っていれば、治療費以外にも使っていたのではないか、そういう予測を立て、口座の入出金を後でしっかり調べる。