【著者に訊け】横田増生氏/『ユニクロ潜入一年』/文藝春秋/1500円+税
〈出発点は激怒であった〉〈私は、メロスのように激怒していたのであった。彼が「必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬ」と決意して、短剣を懐中に忍ばせ王城に入っていったように〉──。と、横田増生氏が物騒なことを書くにはワケがある。かつて氏は『ユニクロ帝国の光と影』(2011年)をめぐる名誉棄損訴訟の渦中にあり、2014年末の原告敗訴確定後も決算発表から締め出されるなど、ユニクロから一切の接触を拒否されたのだ。
「情報公開が前提の上場企業が記者を出禁にするなんて前代未聞。情報を知るには、もう働くしかないなと」
そう。彼は本書『ユニクロ潜入一年』を書くためにまずは姓を合法的に変え、本名・田中増生(仮)としてアルバイトを始めたのだ。これまで数々の潜入取材を手がけた「企業に最も嫌われるジャーナリスト」は、2015年10月から翌年末まで、幕張新都心、ららぽーと豊洲、新宿ビックロ各店で時給約1000円、交通費ナシのアルバイトとして勤務。それでこそ見えてきた、躍進企業の真実とは?
妻と離婚し再婚。そして妻の姓を名乗れば、なるほど合法的に改名はできる。
「そこは文春側の弁護士とも重々相談して、履歴書にウソはないようにしました。ただし50代男性のバイトは僕だけで、年恰好的には相当怪しかったとは思う。でも人間、確証がない限り疑うまではしないらしく、アメリカの大学院を出てて、英語が話せても、案外バレないものなんです(笑い)」
発端は雑誌『プレジデント』で読んだ柳井正社長の発言だった。〈悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど〉〈うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい〉……。