落選を繰り返してもまた、選挙に立候補する人たちがいる。フリーランスライターの畠山理仁氏は彼らを泡沫候補ではなく無頼系独立候補と呼び、その独自の戦いを『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)としてまとめ、2017年第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した。畠山氏に、立候補できるだけでなぜスーパーエリートなのか、そして候補者だけでなく取材者も広告代理店もとりこにする選挙の魅力についてきいた。
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──選挙に出ようという人は特別な人で、世の中にはそんなにいないのではないかというイメージがあります。
畠山:たとえば去年の都知事選だと、選挙管理委員会に60人以上が書類を取りに来ました。立候補する人すべてを取材することに決めているので、書類をもらいに来た人すべてに告示日にも来るのか、供託金はすでに納めたのかなどを聞きます。ただ書類をもらいに来るだけの人もいますが、ほとんどのみなさんが告示ギリギリまで「出ます」「政策も考えています」と話して、選挙公報の下書きを送ってくれた人もいました。
──2016年の東京都知事選挙の立候補者数は21人でした。60人と比べると少ないですね。
畠山: 21人で多いといわれましたが、その影には、出馬の意思はすごくあったけれども、最終的に出られなかった人が40人いるんです。立候補するというのは、とてもハードルが高い行動です。だから、立候補者は、たとえ無所属でもスーパーエリートだと思って尊重しなくちゃいけない。それゆえ、選挙報道にありがちな「その他」にくくられるのは、ひどいと思っています。
──立候補する上で最も大きなハードルは何ですか?
畠山:やっぱりお金です。国政選挙の選挙区や知事選挙の300万円という供託金は高すぎます。お金の次にやってくるハードルは、家族や親族の反対ですね。選挙に出るなら離婚すると言われたり、子供が学校でなんと言われるのか分かっているのかと責められたりするそうです。
──それらのハードルを乗り越えてくるのは、どんな人たちですか?
畠山:初めて立候補する独立系候補者に、供託金はどうやって準備されたんですかときくと「去年、親が亡くなって」という答えをよく聞きます。立候補に反対する親が亡くなり、遺産を相続して環境が整うようです。といっても思いつきではなく、昔から政治に対する不満をずっと持っていたという人が多いです。
──お金と周囲の反対さえなければ立候補はしやすくなるんですね。
畠山:とはいえ実際には簡単に出られないんですよ。準備しないとならないものが、他にもたくさんあります。住民票に戸籍抄本、戸籍名と異なる名前を使いたい場合はその届出書類、選挙運動で人を雇うための届出書類、出納責任者も決めて届け出ないとなりません。ほかにも供託証明書、候補者経歴書、選挙公報掲載申請書、政見放送申込書など、選挙管理委員会に提出する書類がたくさんあります。多くの場合はそれらをそろえて告示日より前に一度、選挙管理委員会にきて、事前審査を受けます。ここで書類の不備などをチェックしてもらって、立候補までにすべて揃えておくんです。
──選挙管理委員会には何度か足を運ばないとならないんですね。
畠山:普通は安全策としてそうする方が多い。ところが、もっとすごい人がいます。この事前審査を受けずに、当日いきなり選挙管理委員会にやってきて、すべての書類をパーフェクトに提出する人がいるんです。そして実際に立候補すると、今度はメディアから調査票作成を依頼されます。生まれ育ち、親族に政治家がいるか、この選挙で何を訴えたいのか、などを記入するものです。これが各社でフォーマットがバラバラなので、依頼してくる新聞テレビの数だけ調査票があります。さらに加えて消費者団体や社会活動をしているNPOなどからアンケートが来ます。団体ごとに掲げるテーマがバラバラなので、アンケートの種類も多いです。