1965年の日本人男性の喫煙率は約80%もあったが、現在は約20%と4分の1に減っている。一方で肺がんの死亡者は年々増加、すでに胃がんの死亡者数を超している。しかも肺がん患者のほとんどが非喫煙者だ。その原因の一つとして受動喫煙の副流煙の吸入とタバコのフィルターの機能向上が挙げられている。
肺がんの種類も変化していて喫煙者に多く発生する扁平上皮がんが減少し、肺の末梢に発生する腺がんが大半を占めるようになった。扁平上皮がんは、タバコの成分が直接気道に入るため左右の肺の中心に近い当たりに発生する。X線で見える上、突然の喀血で発見されることも多い。腺がんは、より小さくなったタバコの成分が肺の末梢に入り、そこで発生する。X線では見えず、症状もないので発見が遅れる症例が多い。順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器外科の鈴木健司主任教授に話を聞いた。
「肺がんは進行度により、I期からIVに分かれ、それぞれAとBがあります。I期とII期は手術による治療が有効ですが、私はIII期Aに対しても開胸手術と胸腔鏡治療を組み合わせたハイブリッドVATS(ビデオ補助胸腔鏡手術)を実施することで、5年生存率の向上に努めています」
肺がんの手術治療は、1933年に開胸による片肺全摘実施が始まった。全摘の縮小治療としては、1960年にがんを発生した肺葉だけを切除する肺葉切除が行なわれ、現在も普及している。
肺葉は右肺に3枚、左に2枚の計5枚に分かれていて、がんを発生した肺葉を切除するものだ。
肺葉切除手術は、VATSで実施する医療機関が多い。1~1.5センチの傷を3~4か所開け、そこから内視鏡や手術器具を挿入して肺葉を切除する。ただし、切除した肺葉は切り口をつなげ、5センチほどにして取り出す必要があり、最終的に当初よりも傷口は大きくなる。さらにVATSは、手術器具に関節がないので細かい作業に向かず、視野が狭いデメリットがある。