◆番組スタッフから感じた私たちへの愛情
撮影される側として感じましたが、ドキュメンタリーを撮る仕事は、作品となる相手に対して愛情を持っていないとできないですよね。撮影期間中は毎朝カメラを持って旅館にいらっしゃるのですが、私たちの気分がすぐれず、「今日は撮らないでほしい」とお願いしたときは、すーっと去って行かれます。いつも緊張させない雰囲気を作ってもらっていると感じます。
一方、ドキュメンタリーを撮る人のフットワークの軽さ、取材力、アンテナの張り方には驚かされました。大里さんは能登半島地震が発生した数時間後には、旅館に東京から到着していましたし、私の陣痛が始まったころにもすでに飛行機で飛んで来ていました。もちろんカメラを手にはしているのですが、何よりも心配して来ていただいていることが十分伝わってきました。
撮る側と撮られる側ではあるものの、私たち家族は大里さんには非常に助けられました。本音でぶつかり合うことを避けていた夫と義父の間に入り、お互いの誤解を解いたりもしてくれました。
北陸新幹線が開通した2015年、父親からバトンを受け夫が社長となりましたが、老舗旅館ではなかなか難しい世代交代を円滑にできたのも大里さんと番組のおかげだと思います。このご縁がなければ、世代交代も、インターネットを活用した新規顧客の獲得なども遅れていたかもしれません。
放送後の反響は予想以上でした。「テレビで見ました」「能登を旅行するならこの旅館に泊まると、10年以上思い続けていました」というお客様が、初回放送後12年経った今でも、1日1組は必ずいらっしゃいます。
番組のテーマは多田屋という旅館ではなく、あくまでも「家族」だったので、お泊りになって初めて「見覚えがあると思ったら、テレビで見た旅館は多田屋だったんですね!」と驚かれるお客様もいらっしゃいます。『ザ・ノンフィクション』がどれだけ多くの人に見られ、記憶されているのかを、日々お客様を迎える度に実感しています。
●『花嫁のれん物語』パート6は、12月10日14時より放送予定
※週刊ポスト2017年12月15日号