今年5月に成立、2018年4月に施行される「改正介護保険法」は、介護が必要な高齢者の「自立支援」や「要介護状態の重度化防止」を高らかに謳っているが、現場からはすでに疑問の声が上がっている。
懸念されているのが、介護保険利用者の「自立支援」という名目での「インセンティブ制度」の導入だ。国は「自立支援を促す」というフレーズを掲げ、利用者の要介護度を下げた自治体や事業者には別途ボーナス(介護報酬の加算)を出すことになる。「要介護3」だった人が「要介護2」に下げられる、といった事態が発生しかねないのだ。高齢者で状況が改善することは「難しいのでは……」といった声が実際に介護する人からは聞かれるが、下げるインセンティブが働くようになる。
介護保険料は利用者の要介護度によって給付の上限が決められている。地域差もあるが、最も軽い要介護度1であれば上限が19万円程度、最も重度の要介護度5は41万円程度だ。介護保険の利用者はこの上限を目安に介護サービスを組み合わせて利用する。
「介護保険を使って受けられるサービスの幅が狭まれば、しわ寄せは家族にきます。介護保険が立ち上げられた時の理念は、“介護を担うのは家族ではなく社会”というものだったはずですが、完全にそれと逆行する流れになる」(都内で活動するケアマネージャー)
◆終の棲家がリハビリ地獄に
有料老人ホームなどの環境も変わってしまうかもしれない。介護雑誌『あいらいふ』の編集長・佐藤恒伯氏は“リハビリに熱心すぎる施設の増加”を懸念する。
「体の状態が改善すればインセンティブがもらえるわけですから、利用者の意思や希望を置き去りにしたまま、リハビリを過度に奨励する流れが出てきかねない。私が介護士をしていた頃に、90歳の男性に『もうリハビリなんかしたくないんだよ』と言われたことがあります。辛い思いをして少し元気になったところでQOL(生活の質)はさほど変わらない。『そっとしておいて』という人をリハビリに駆り出すのは、一種の虐待だと指摘する専門家もいるくらいです」