キャッチと呼ばれる「客引き行為」といえばキャバクラなど客席で接待される業態の店への勧誘のイメージが強い。しかし最近では居酒屋やカラオケなどへの「キャッチ」が増えている。しかも、この居酒屋などの店舗は、相場より微妙に高い「プチぼったくり」の店が多いのだ。今では多くの自治体で禁止され、取り締まりの末に逮捕者が出ているにも関わらず、繁華街の路上から「キャッチ」は消えない。最近では「プチぼったくり」を常習とする居酒屋などに雇われることが多い「キャッチ」の実態を、ライターの森鷹久氏がリポートする。
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「悪質なキャッチに注意しましょう」
東京・上野の繁華街に繰り返し響く無機質なアナウンス。そのスピーカーの真下にいた男性が、男ばかり三人で歩いた筆者達の元に駆け寄ってくる。
「飲み、女の子、抜き、どれですか?」
お兄さん、キャッチ? と聞くと“はい、キャッチっす!”と、悪びれるそぶりも一切見せず、笑顔で答える青年。キャッチが禁止されているはずの上野仲通り商店街で、しかも、今まさに通りには「キャッチについていくな」というアナウンスがなされているにも関わらず、実に堂々と“キャッチ行為”を行っている。そしてよく見ると、通りのあちこちにも、一目でキャッチと分かる若い男らが、少なくとも十数人はいた。
「(取り締まりを)やってもやっても、キャッチはまたやってくる。まるで雨後の筍。一週間前に逮捕したやつが、またキャッチをやっている、なんてのもザラ。取り締まったという見せかけだけじゃないか、こう思われても仕方がない」
こう語るのは、警視庁の捜査関係者。今年10月、8~9月にかけて上野の繁華街で悪質な客引き行為を繰り返したとして、警視庁はキャッチの男ら3人を逮捕した。こうしたキャッチが「迷惑防止条例」違反容疑のなかでもより罪が重くなる常習容疑で摘発された全国初のケースであり、その後、関西などでも悪質なキャッチが逮捕される事例が続出。東京だけでなく、全国に「キャッチ」が存在することも明らかになった。
ただ、こうした当局による締め付けが、キャッチを撲滅させそうかと言われると、実情はそう簡単でもなさそうだ。
東京都内の繁華街を転々としながら、今も“キャッチ”で生活費を稼ぐ現役大学生・槙野氏(仮名・23歳)は、逮捕された経験はないものの、キャッチが減らない理由について次のように証言する。
「とにかくギャラがいい。いろんな契約形態があるが、自分は店と直接契約を結んでいるっすね。キャッチして、その客が使った2~3割程度がバックされる仕組み。だから、出来るだけ人数が多い客を狙います。一晩で5組キャッチすると、大体3万は稼げる。学生のバイトもいれば、昼職やってるサラリーマンが小遣い稼ぎにやってる場合もある。レギュラー(毎日)の先輩が一度パクられましたが、二日間留置所に入り、処分保留ですぐ出てきた。今も元気にキャッチやってますよ(笑)。出来るキャッチは、実は店側からも重宝されてるんです」
確かに、日給3万円の仕事はなかなかない。毎日キャッチとして街に立ち、月に100万以上の収入を得ている先輩もいるという。また、週に二日ほど、夕方から深夜にかけて数時間キャッチするだけで、一般的なアルバイトの一ヶ月分を稼ぐ者もいて、その効率の良さが、キャッチへ流れる人々を魅了しているとも話す。
とはいえ、逮捕はリスクではないのか。キャッチ男は店側から感謝されていると、違法な仕事の継続を正当化するような口ぶりで、逮捕された同業者が明らかな“違法行為を行っていた”という事実については、知らんぷりを決め込んでいるかのようだ。一方、上野・仲通商店街の飲食店関係者は、キャッチが関わる飲食店について「キャッチありきでやっているとんでもない店が多い」と憤る。
「キャッチが関わっている店は、“今では”あからさまではない“プチぼったくり”の店が多いんです。そもそも店とキャッチが結託しているから、客に出来るだけ多く支払わせようとする反面、ビールだと謳っているのに発泡酒だったり、メニュー単価が近隣店の1.5倍ほどだったり……。もちろん、メニューの質も著しく悪く、残り物を使いまわしたり、衛生管理が適当だったり酷いもんです」(飲食店関係者)
かつては、キャッチが正当に店から必要とされていた時もあった、とも語るこの関係者。表通りに面していない飲食店が、キャッチ業者にお願いをして、客を連れてきてもらっていた時期も、極めて短期間ではあるがあったのだという。