【書評】『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』/矢部宏治・著/講談社現代新書/840円+税
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
北朝鮮の弾道ミサイルが、相次いで発射されるなか、米軍の戦略爆撃機が飛来し、空母が日本海で展開する。実にスピーディーな米政府による「軍の配備」は、しかし日本の安全保障のためではない。アジア地域での米国の権益を守ることにあると本書は指摘する。
米国の「対日方針」では、「日本全土が防衛上」の軍事拠点と位置づけられていて、その太平洋上の要塞を守る必要があるからだ。著者は、このような秘められた両国関係を、占領期からの「密約文書」や「秘密公電」など貴重な資料を収集、分析することで見事なまでに解き明かした。
「戦後初の『本格的政権交代を成しとげた鳩山首相』」が、わずか9カ月で退陣に追い込まれたのも、「軍事面での占領状態」が続いていることに対する政権の認識不足からだった。「米軍が日本の国土全体を自由に使用」できるとした密約に抵触し、米軍が望まない「普天間基地の『移設』」を表明したことで、怒りを買ったのだという。
選挙で選ばれた首相以上に、米軍が統治権を行使できる理不尽に甘んじなければならないのは、経済面でも米国に首根っこを押さえられているからだろう。米国という巨大な市場から閉め出されれば、日本は途端にやっていけなくなる。