マスコミの質の低下が指摘されることが増えているが、なかでも誤植や誤用が頻出している現実に、評論家の呉智英氏はため息をつく。
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十二月二日付朝日新聞土曜版に「自撮り」を考証した記事が載った。そこにこんな文章がある。
「丹精な顔がぶれないようじっと目線を流し続けた」
顔といっても朝顔じゃないんだから、丹精したりはしない。端正な顔がブレボケでは台無しなので、じっとしていたのだ。
最近はパソコン入稿が主流になり、「端正」を「瑞正」とするような間違いは起きにくいのだが、「丹精」とか「嘆声」とするような間違いは起きやすい。この記事も校閲の目を逃れてしまった。
まあ、これは誤報だの国語力低下だのではなく、単なる笑い話。しかし、平成改元時に、笑い話ではすまない大事件があった。
一九八九年二月九日号「週刊SPA!」は大ミスのため発売中止、既発送分は回収となった。猪瀬直樹の連載コラムの小見出しに「大正洗脳の遺体保存には『朱』、昭和天皇はドライアイス?」とあったのだ。猪瀬には『天皇の影法師』や『ミカドの肖像』があり、天皇テーマの文章には細心の注意を払っていたから、完全に編集部のミスによる誤植だった。
一見誤植のようで実は言論人の国語力低下を象徴する記事も目にする。