人がうつになるメカニズムは、いまだ充分に解明されておらず、栄養学的な面でもいろいろな影響因子が考えられると、医療法人山口病院・精神科部長の奥平智之さんは言う。
「セロトニン(不安うつに関与)・ドパミン(喜びに関与)・ノルアドレナリン(やる気に関与)などの『脳内ホルモンのスムーズな産生不足』、脳や全身の細胞内で栄養分からエネルギーを生み出す『ミトコンドリアでのエネルギー産生不足)』が挙げられます。これらに共通したキーワードが“鉄欠乏”です。
脳内ホルモンの材料はアミノ酸(たんぱく質)、細胞のエネルギー源はたんぱく質、脂質、糖質ですが、これらの材料があるだけではダメで、ホルモンやエネルギーに変換するための栄養素が必要なのです。その筆頭が鉄です」
鉄が不足しているなら、レバーなどの肉を食べれば…と安易に考えがちだが、そう簡単ではなさそうだ。
◆鉄の不足
「鉄欠乏になる要因は大きく2つあります。生理のある女性は基本的に鉄が不足しがちです。特に中高年は、生理や出産で鉄を失ってきた年月が長いことや、子宮筋腫や子宮内膜症に伴い月経量が増えることが原因で、鉄欠乏になりやすいのです。
そして食事からの鉄の摂取不足。鉄は肉・魚に多く含まれますが、小食の高齢者や女性はご飯や麺類などの糖質を中心に食べ、鉄を含むおかずが不足する傾向にあります。
◆炎症による鉄の利用障害
鉄は体にとって重要な働きをする半面、血液中に入った細菌も鉄で増殖するため、体内に炎症が起こると、体は感染したと勘違いし、生体防御反応で血液中に鉄を流さないようにします。そのため、腸から吸収しなくなったり、鉄を必要な場所に運んだりするのをやめてしまいます。この状態では鉄を摂っても吸収できず利用もできなくなります。
炎症は風邪や皮膚炎、関節炎、骨折はもちろん、メタボ、脂肪肝、糖尿病、がんなどの多くの内臓疾患で起き、どこに炎症があっても鉄が使えなくなります」
また最近、鉄の調理器具が使われなくなったことも、鉄欠乏に影響しているという。
「もう一つ、うつの大きな要因になるのが“糖質過多”の食生活です。糖質には砂糖などの糖類だけではなく、パンや麺類、ごはんなどの主食も含まれます。体のエネルギー源の1つではありますが、多量に摂ると血糖値が乱高下します。これが精神状態を不安定にさせ、副腎を疲弊させるのです。