“今、気になる”人物に密着する番組『情熱大陸』(MBS制作・TBS系列放送)。長期に及ぶ撮影、コンサートや五輪の会場から実家や友人との食事現場まで入り込むカメラ…30分の番組はどのようにして作られているのか。2010年秋に、『情熱大陸』の5代目プロデューサーとなり、12月17日放送の20周年スペシャルでプロデューサーを卒業する毎日放送の福岡元啓さんに話を聞いた。
──毎週、多彩なジャンルで活躍する人々が登場する『情熱大陸』で気になるのは、その人選。「こんな人がいたんだ!」と驚かされる密着対象者はどう探しているのか?
制作会社さんから毎日のようにメールやFAX、訪問で企画が寄せられます。中にはご本人からの売り込みもあります。芸能事務所だけでなく、街中の人から「初めまして」と出演を希望する手紙が週2~3通届く。他にも、報道や営業など局内からの持ち込みなど。合わせて年間1000本ほどです。
出演者からの紹介もあります。皆さん、さまざまなネットワークをお持ちで、「この人いいらしいよ」という各業界の“シード段階”にいる人の情報を教えてくれる。12月10日に放送した音楽家の原摩利彦さんは、2012年に出演したアーティスト・清川あさみさんからの紹介です。ずっと前から、「この人は注目した方がいい!」と推していました。
──膨大なリストから密着対象者を選ぶ決め手は?
突き詰めると、“直感”になるんです。視聴率がとれるとか相手の宣伝になるとか、そういう互いの損得勘定抜きで撮りたいと思える対象なのか。その勘が頼りです。
例えば、2017年4月に紹介したテキスタイル・デザイナーの森本喜久男さん。どう生き、どう人生を締めくくるかというのが今後の大きなテーマだと考えていた時に、ずっと前から森本さんに注目していたスタッフから“彼は本物だし、余命1年といわれている今こそ”、と提案があった。スポーツ選手のように広く知られた人では決してありませんが、放送したらとても反響が大きかった。話題になっている人物だから、ということではなく、社会で提起されている問題を語れる人物、という選び方もあるんです。
ぼくを籠絡したら出られるとなるとよくないし、必ずしも企画が成立するわけではありませんから、候補者とはできるだけ会わないようにしています。“この人を出してあげたい”という情のようなもので出演者を決めるのではなく、客観的指標を見失わず冷静に判断すること。それができているか、常に自分に問いかけています。
──オファーを断られるケースは?
実はお願いしても半分くらい、断られることがあります。まずタイミングが折り合わず実現しないケースや、ご本人が番組を好きで「自分は出演するレベルに達していない」と謙遜されるケース。先日も某大物女優さんから「何もしてない女優の私生活を見ても、全然面白くないだろうから」って辞退が。そんなことないのにな、と残念に思います。