56.4%の高齢者が「自宅で最期を迎えたい」と望んでいる(2014年内閣府調査)にもかかわらず、自宅で臨終を迎えるのは12.8%(2012年厚労省公表データ)に過ぎない。在宅死の難しさはこのギャップに表われている。
だが、看取った直後に家族がピースサインで写真に収まる──そんな光景が現実に存在すると証明したのが、日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄医師だ。今年6月に発売され、7刷を重ねる話題作となった小笠原医師の著書『なんとめでたいご臨終』(小学館刊)には、そんな故人と遺族の写真が多数掲載されている。
大好きな焼酎を自宅でグビグビ空けながら笑って逝った人もいる。上松秀雄さん(仮名・70代)は肝臓に転移した状態で肺がんが見つかった。余命は半年だった。
元医師の上松さんは当初、在宅死を拒み、その理由を小笠原医師にこう打ち明けたという。
「勤務医時代、がん患者に対して抗がん剤を使ったけれど助かった患者は1人もいなかった。そんな風に患者を苦しませていた僕が抗がん剤をやめて、家で緩和ケア(*注)を受けたいなんて許されないでしょう」
【*在宅ホスピス緩和ケア/在宅で痛みや苦しみを和らげる治療を行なうだけでなく、患者の不安や悩みに寄り添う精神的なケアも行なう】
悲壮な決意を口にする上松さんの姿が悲しく、小笠原医師は焼酎が大好きだという上松さんにこう話したという。
「飲んだらいかがですか? 死んだら飲めませんよ」