2006年に発足した第一次安倍政権。その年、教育基本法が改正され「愛国心」という言葉が盛り込まれた。同じ年、在特会(在日特権を許さない市民の会)が設立されている。そこから現代に至る「日本のリスク」とは──。作家の佐藤優氏と思想史研究家の片山杜秀氏が「平成史」を論じた。
片山:2006年9月には第一次安倍政権が発足しました。安倍晋三がビジョンを持っているとは思えませんが、彼は「美しい国」というある種の到達点を示した。
佐藤:安倍さんは「美しい国」という目標を設定して、その実現を図ろうとした。ストレートな目的論です。ただし「美しい国」というフレーズを唱えたからと言って、理想的な国家ができるわけではありません。2005年に作られた自民党初の新憲法草案に「自衛軍」と明記されましたが、紙の上で自衛隊が「軍」に変わろうが実態は何も変わらない。それと同じです。
片山:そう。他国を侵略するわけではないので「自衛軍」はただのこだわりに過ぎない。その文脈で、安倍政権は12月に教育基本法を改正して「愛国心」という言葉を盛り込んだ。「日本の誇り」や「強い日本」を取り戻すべきだという空気が一気に強まっていきました。そして2007年1月に防衛省を発足させる。
佐藤:2006年のベストセラーである『国家の品格』【※注1】がその風潮を端的にあらわしています。論理よりも情緒を重んじる日本人らしさの大切さを訴えて200万部以上を売り上げた。
【※注1/2005年11月刊行。著者は数学者の藤原正彦氏。いまの日本には、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神が必要だと説いた】