年末年始はじっくりと本を読む良いチャンス。『週刊ポスト』の書評委員が選ぶ書は何か? 明治大学特任教授の山内昌之氏は、「教養」を読み解く本として、『歴史の勉強法』(山本博文・著/PHP新書/860円+税)を推す。山内氏が同書を解説する。
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歴史を語るには、それなりの基礎知識と歴史観をもたねばならない。山本氏の紹介する社会学者二人の対談などは、そうした準備もなしに歴史を語る危険性を教えてくれる。その一人に言わせると、源頼朝が任じられた右近衛大将は「下っ端のノンキャリア」だから頼朝が京都にいる必要がないというのだ。
日本史家の著者は朝廷武官の最高官職を「下っ端」と言い切る思い込みに呆れたようだ。こうした発言が生じるのは、史料に地道にあたる苦労もせず、政治軍事の基本機構や有職故実について勉強したこともないからだろう。
それではダメなのだ、と示唆する山本氏は、この社会学者が徳川幕府に圧倒的な軍事力をもつ「幕府軍」は存在しないという指摘にもさぞ驚いたことだろう。大番、書院番、小姓組番などを知らなければ、そもそも何故に番町という地名があるのかも分かろうはずがない。本書は、こうした間違いを犯さないように、日本史を学び語るときに必要な作法を教えてくれる。
暦と時刻については「換暦」という便利なネットのサイトを紹介し、金銀銭の交換レートは図解と表で分かりやすく説明している。1両は銀50匁、銭4貫文(4千文)になるので、蕎麦1枚が16文だとすれば480円(1文が30円)見当になり、現代人の貨幣感覚からも納得できるというのだ。本書は、この種の具体例も豊富なので、時代劇や時代小説を楽しむ上でも安心できる手がかりになる。