年末年始はじっくりと本を読む良いチャンス。『週刊ポスト』の書評委員が選ぶ書は何か? 経済アナリストの森永卓郎氏は、株価バブル崩壊を読み解く本として、『経済成長という呪い 欲望と進歩の人類史』(ダニエル・コーエン著/林昌宏・訳/東洋経済新報社/2000円+税)を勧める。森永氏が同書を解説する。
* * *
2017年は、株価が四半世紀ぶりの高値を記録した。当然だ。3月末の企業の内部留保は前年比28兆円増の406兆円、企業の手持ちの現預金だけで211兆円に達したからだ。
経済成長というのは、為政者にとって最大の武器になる。中国が人権抑圧をしても政権が揺るがないのは、国民が喜ぶ経済成長のおかげだ。スキャンダルに揺れた安倍政権が、衆院選で圧勝したのも、同じ理由だろう。しかし、私は日本の株価バブルが2018年中に崩壊するだろうとみている。
本書は、人類の誕生から現代にいたるまで、壮大なスケールで描かれた経済史であり、社会心理学だ。本書の内容は多岐にわたるが、一番重要な指摘は、人間の所得欲求には限度がないということだ。
どんなに金持ちになっても、人間はさらに多く稼がないと満足しない。そこに1980年代以降、著者が指摘する経営者と従業員を切り離すガバナンス変化が重なった。株価にリンクした報酬を得るようになった経営者は、従業員を切り捨てて報酬を拡大するようになった。これがまさに安倍政権下で起きた変化だ。