年末年始はじっくりと本を読む良いチャンス。『週刊ポスト』の書評委員が選ぶ書は何か? ドイツ文学者・エッセイストの池内紀氏は、「気がつけば戦争」という状況を知る本として、『日本人のための第一次世界大戦史 世界はなぜ戦争に突入したのか』(板谷敏彦・著/毎日新聞出版 2000円+税)を推す。池内氏が同書を解説する。
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タイトルに「日本人のための」とついている。第一次世界大戦は4年3ヵ月の長きにわたって戦われ、死者1000万にのぼる大戦争だった。にもかかわらず、日本人はほとんど何も知らない。多くの国々に膨大な犠牲と深い傷あとを残したが、日本人には遠い「対岸の火事」だった。それどころか、労せずして植民地と大陸侵攻の足がかりを手に入れた。
タイトルには、また「世界はなぜ戦争に突入したのか」と添えられている。ヨーロッパの人々は誰も戦争を望んでいなかったし、戦争に至るとも思っていなかった。宣戦布告されたあとも、せいぜい数ヵ月で終了する小競り合い程度と考えていた。あとは外交団が割って入ってケリをつける。そのはずである。
「戦争は金融市場の暴落と同じで、忘れた頃に突然やってくる。100年前にヨーロッパの人々が抱いていた『幻想』を、もしかしたら現代の我々も抱いているのではないでしょうか」
くわしく、わかりやすく、いちいち腑におちる戦史である。数字が多く出てくるのは、著者が長らく証券会社幹部として数字で考える人だったからだ。数字はまた「自分の考えに沿う情報だけを集める認知バイアス」のおめでたさを暴露する。