年金は何歳から受け取るべきか──内閣府の検討会などで、受給開始を「75歳」まで選べる制度の導入が提言されている。「少しずつでも『長く』受け取る」か「期間は短くても『たくさん』受け取る」か。これは「どちらが正しいのか?」という二者択一の単純な判断ではない。「年金博士」こと社会保険労務士・北村庄吾氏はこういう。
「定年退職後の人生において、『お金』はもちろん重要ですが、心身の健康、そしてどんなことに時間を費やしたいか、といった要素も大切になってきます。
体が比較的よく動く60代のうちにしかできない目標があるのか、70代まで長く続けられる趣味を持っているのか。そうしたことも踏まえて初めて、60歳以降の『どの時期』にお金が必要かというシミュレーションが可能になってくる」
つまり、「繰り上げ」「繰り下げ」の判断は、夫婦の趣味、定年後の楽しみや生きがいをどこに見出すかによっても変わってくるのだ。それでは、75歳までお金のかかる遊びは控え、少しずつお金を使いながらゆっくり過ごしたい人の場合はどうか。
海外旅行のようにまとまった出費の予定がなくても、読書や映画鑑賞、ゴルフ、釣りといった現役時代から続けている「趣味」や、週に何回か友人と飲みに行く習慣があれば、定年後もそれなりにお金がかかる。前出・北村氏はこう説明する。
「総務省の家計調査報告(2016年)によれば、60歳以降の家計における支出で、交際費が約2万9000円、教養娯楽費が約2万6000円となっています。