一口に「肉食」といってもいまや色々ある。日本人の嗜好も随分と多様化した。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が「肉の変遷」について指摘する。
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2017年もあとわずか。今年も肉は一定の盛り上がりを見せたが、年末ということもあり、近年の肉事情を少し整理しておきたい。この10年の肉トレンドを流れで見ると「ブランド牛(十把一からげ)礼賛」「A5信仰」「ホルモンブーム」「赤身肉トレンド」「熟成肉ブーム」というふうに、さまざまな切り口で肉シーンは盛り上がりを見せてきた。
例えば10年前の2007年、朝日新聞に興味深い調査が掲載されている。「案内人と決める日本一は?」というブランド牛についての調査企画だ。2万3236人から聞き取った調査結果は次の通り。
1位松阪牛(1万5086人)、2位神戸牛(1万1634人)、3位米沢牛(9259人)、4位近江牛(5293人)、5位飛騨牛(3947人)、6位前沢牛(3727人)、8位大田原牛(1177人)、9位十勝牛(1147人)、10位宮崎牛(835人)となっている。
調査は「日本一は?」となっていたが、事実上「知っているブランド牛は?」という調査結果になってしまった印象が強い。上位には有名ブランド牛がずらりと並ぶ。
当時はインターネットこそ一般的になっていたものの、国内でのSNSと言えばmixi全盛だった頃だ。前年にアメリカでサービスインしたTwitterはまだ日本で展開されていなかったし、Facebookも日本ではまったく浸透していなかった。要はテレビ・新聞などマスメディアで見かける牛肉への信頼度が高かった時代である。
宮崎牛はこの年、「和牛のオリンピック」とも呼ばれる「第9回全国和牛能力共進会」で内閣総理大臣賞種牛・肉牛2部門を独占。農林水産大臣賞9区分中7区分を制覇したが、当時そうしたニュースはほとんど話題にならず、メディアはすでに知られている「有名ブランド牛」をもてはやすばかりだった。
松阪牛、神戸牛がそれぞれ全体の半分以上の支持を得たのに対して、前出の調査で宮崎牛は複数回答にも関わらず、4%にも満たない支持しか得られなかった。メディアも消費者も、和牛のコンテストというもの自体を知らなかった。
一般的な消費者の肉に対する評価基準も曖昧だった。「霜降り」が重視されていた頃で、ハンバーグでもステーキでも誰もが「サシ」を求めた。だからこそ、次なるステージではサシについて具体的な指標と受け止められた「A5」が信仰の対象となっていく。