天皇と正月といえば、1月2日、皇居の長和殿ベランダに天皇・皇后はじめ皇族方が勢揃いする「新年一般参賀」が印象深い。日本国旗を振る数万人の国民に対し、天皇が微笑みながら手を振って応えている光景がお馴染みだが、その笑顔の裏には相当な疲労が蓄積されているはずだ。
なぜなら、その前日の元日は、天皇にとって“1年のうちで最も忙しい日”だからである。
初日の出にはまだ早い早朝5時半、天皇の元日は始まる。伊勢神宮をはじめ四方の神々を遥拝(ようはい)する宮中祭祀「四方拝」に臨むのだ。皇室ジャーナリストの神田秀一氏が解説する。
「四方拝は宮中の神嘉殿の前庭に敷かれた畳の上で行なわれます。最初に皇室の祖先神が祀られている伊勢神宮の方向へ、それから東、南、西、北の順番で四方の神々に遥拝していきます。遥拝の作法は、まず正座の姿勢から立ち上がり正座に戻るという動作を2回繰り返す。正座の姿勢のまま深いお辞儀を1回挟んで、再び同じ動作を2回繰り返します。このようにして陛下は国家国民の安寧と五穀豊穣を神々に祈られているのです」
四方拝の前には身を清める「潔斎(かかり湯で心身を清める)」という儀式もある。それから天皇しか身につけることのできない「黄櫨染御袍」という重い装束に着替え、宮中の神嘉殿に移動する。
「準備時間を考えれば、陛下は午前4時には起床されているでしょう。寒風吹きすさぶ屋外でコートを羽織ることもなく儀式を行なうわけですから、ご負担は相当なものです。ご高齢が考慮され、近年は御所のベランダにてモーニングコート姿で行なわれるようになりましたが、ご負担が大きいことに変わりはありません」(同前)
神道学者の高森明勅氏によれば、四方拝は1000年以上の歴史があるという。