いじめは大人の世界でも頻発している。『ヒトは「いじめ」をやめられない』を上梓した脳科学者の中野信子氏が脳科学の観点から対策を説く。
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猛獣と比べて脆弱な肉体しかもたない人間が地球上で生き残ってこられたのは、集団を作って高度な社会性を持ってきたからである。
この集団が存続するうえでもっとも脅威となるのは、自分だけ楽をしたり、集団に協力しなかったりする「フリーライダー(タダ乗りする人)」だ。放置すると集団が崩壊するので、人間の脳には、フリーライダーに制裁を加えて排除しようとする「裏切り者検出モジュール」という機能が備わっている。
人間の脳内では安心感を抱かせ、やる気を出させるセロトニンという神経伝達物質が分泌されているが、日本人はセロトニンを再利用するセロトニントランスポーターの量が少ない人が極めて多く、世界一不安になりやすい民族といえる。そのため、「裏切り者検出モジュール」の感度が高く、フリーライダーとはいえない人までも「将来的な不安の種」と認識し、過剰に排除してしまう。これが「いじめ」のメカニズムだ。
いじめは脳の機能で起きるものだから仕方ないなどというつもりは毛頭ない。メカニズムを知り、それを対策に活かすことが重要だ。
いじめは大人の世界でも起きる。昨年末、世間を騒がせたあの“事件”はまさにいじめの構図だった。
横綱・日馬富士が平幕・貴ノ岩を殴りケガを負わせた件で、貴乃花親方が警察に被害届を出した際、「横綱に対して失礼な態度をとった貴ノ岩も悪い」「貴乃花は警察に届ける前に協会に報告すべきだった」といった声が出て、メディアも大きく取り上げた。相撲フリークと呼ばれる人ほど、貴乃花親方や貴ノ岩を批判していたのは象徴的だ。角界を守るため、秩序を乱す者を排除するという「利他的懲罰」の面が強く出ていた。