二代目松本白鸚(75才、元・松本幸四郎)、十代目松本幸四郎(44才、元・市川染五郎)、八代目市川染五郎(12才、元・松本金太郎)の三代同時襲名に加え、市川猿之助(42才)、尾上菊之助(40才)ら、市川海老蔵(40才)世代の活躍など、注目を集める歌舞伎界。次世代の台頭も目立つ。
その筆頭格が、前田敦子(26才)との熱愛で一躍、世に名が知れ渡った尾上松也(32才)である。血縁を重視する歌舞伎界で、松也はいわゆる“御曹司”ではなく、弟子筋の家系に生まれたため、その時点で大きなハンディを背負うこととなる。
そんな幼き日の松也に目をかけたのが海老蔵だった。松也の母・河合盛惠さんが語る。
「海老蔵さんは昔から華があって無邪気ないい人ですよ。松也は小さい頃から海老蔵さんが大好きで、楽屋で『新之助のお兄ちゃん』と言っては海老蔵さんを追いかけ回してました。海老蔵さんからは『ずっと松也がくっついてきてうるさい』と言われましたけど、私が『それぐらい大好きなのよ』と伝えると、『そっか』と笑ってかわいがってくれました」
子役時代こそ舞台に出ずっぱりだったが、周囲からは「良い役がもらえるのは子役のうちだけ。大人になったら厳しい」と心ない言葉が耳に入ることも。その言葉通り、2005年、松也が20才の時に父・松助が亡くなると不遇の時代を迎える。
「芸の虫だった主人も、いつも回ってくるのは脇役ばかりで、ストレスを溜め込んでいるように見えました。そんな主人の苦悩する姿を目の当たりにしていますから、役が付かず悶々としている松也に“大川橋蔵さんは映画に出てスターになった。あなたも歌舞伎座の外で名前を売ってみなさい”と発破をかけました」(盛惠さん)
くすぶっている松也の飛躍のきっかけを与えたのも海老蔵だ。2008年のこんぴら歌舞伎で海老蔵が座頭を務めた際は、松也を一座に同行させ、大きな役に抜擢して、女形だけでなく立役も演じられることを世に示した。母の言葉や海老蔵に刺激された松也は2009年から自主公演『挑む』を年1回のペースで続けている。
歌舞伎役者が自主公演を行う意味について、ネットメディアで『恋する歌舞伎』などの連載を持つ歌舞伎ライターの関亜弓さんが解説する。
「自主公演は若い役者が自らお金を出して企画を立て、普段はできない大きな役を先輩がたに教えを請いながら演じる。その中で“自分がなりたい役者”像を創り上げていくのではないでしょうか」
松也は忙しい仕事の合間を縫って、自らスポンサーを探して資金をかき集め、自主公演を実現させたという。
「松也は自分の力で周囲に実力を認めてもらおうと必死でした。親友の七之助くんから“自主公演におれも出してくれ”と頼まれても、“まだ世に出ていない、自分が見出した役者と一からやってみたい”と断った。それほど自主公演に懸けていたんです」(盛惠さん)
◆斬新な取り組みを次々と成功させた中村勘三郎