カヌーの国内トップ選手だった鈴木康大(32)が、ライバル選手に禁止薬物を飲ませるという前代未聞のスポーツスキャンダル発覚から1週間──鈴木のごく近しい人たちも悔恨と困惑の日々を送っていた。鈴木が所属していた会社の社長で義父でもある男性が、その胸中を吐露した。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がリポートする。
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福島県二本松市の中心部から車で30分離れた新興住宅地は、数日前の喧騒が嘘のように寂れた日常を取り戻していた。
早朝に氷点下6度を記録したこの日(1月15日)、鈴木の自宅には人の気配がなかった。元カヌー選手だった妻(綾香さん)と共に営んでいた、自宅に隣接するスポーツジム「DREAM」も閉められていた。
そこへトラックに乗って現われたのが、鈴木の義父、久野浩二氏(55、久野製作所社長)だった。
「ジムは閉鎖したわけではありません。今朝も20名ほどのシニアの方々に利用いただいておりました。ところが、どうも水道が凍結してしまって。それでいったん、閉めているんです。康大(鈴木)は今、ここにおりません。私が『出て行け』と言ったわけではないですよ。正月に一晩だけ帰って来ましたが、捜査も続いておりますので、(実家のある)千葉におります。娘(綾香さん)も事件が公になってからは、ここにいません。康大とは別の場所で、3人の子どもたちと一緒におります。今回は康大が世間を騒がせ、大変申し訳なく思っております」
鈴木が愚行に走ったのは、昨年9月11日のこと。石川県で開催されていたカヌー・スプリント日本選手権で、代表を争う小松正治のドリンクボトルに筋肉増強剤「メタンジエノン」を混入させた。小松はレース後の検査で陽性反応を示し、ドーピング違反に問われてしまう。