【著者に訊け】内藤啓子氏/『枕詞はサッちゃん 照れやな詩人、父・阪田寛夫の人生』/新潮社/1600円+税
父は芥川賞作家で詩人の阪田寛夫。妹は元「宝塚のアステア」こと大浦みずき。父方の大叔父・大中寅二や従伯父・大中恩は共に作曲家で、同じ団地で育った阿川佐和子氏や、庄野潤三、三浦朱門といった父の旧友も含め、著者・内藤啓子氏の周辺は実に多士済々だ。
それは見合いの席で父の職業を問われた時のこと。代表作『土の器』を『砂の器』と混同され、やむなく♪サッちゃんはね~と歌いだすと、相手は大抵〈ああ、あの〉と納得してくれた。
よってタイトルも『枕詞はサッちゃん』。作家の傍ら、『おなかのへるうた』『ねこふんじゃった』等、数々の童謡を手がけた父の死から12年、内藤氏はその生涯を叙情より叙事に徹し、ユーモラスに描きながら、改めて思う。〈家族の恥部も全て創作のネタにするひねくれ者に、なぜあんなに優しい詩が書けたのだろう〉と。
あとがきに〈阪田寛夫とその作品に興味をお持ちくだされば幸いです〉とあるので、いくつか読んでみた。芥川賞受賞作『土の器』や『背教』等、肉親をモデルにした人間模様を滑稽かつ坦々と描き、その根底には常にキリスト教があった。
「本は全く売れませんでしたけどね。『オジサンは詩だけ書いていればいいのに』って、よく母や妹と話していたくらいです(笑い)」
阪田家では父をオジサン、母・豊(とよ)をオバサンと呼ぶ。寛夫は夫婦喧嘩で離婚した時に備えて〈今日から俺のことを『オジサン』と呼べ〉と娘達に命じ、ついでに母もオバサンになったらしい。