近年、様々な研究が進められ、腸が持つ新たな「力」が次々と明らかになっている。腸といえば食べ物の消化・吸収、便の排出……「腸の機能」といわれた時に浮かぶのはそうしたイメージだろう。だが、その範囲にとどまらないのである。
とりわけ注目されるのが「腸の免疫パワー」で、これまで根治が難しいとされてきた病が克服できる可能性だ。成人男性の腸の長さはおよそ7~9メートルあり、表面積はテニスコート1面分にも及ぶ。“広大”な腸には約1000種類、約100兆個の「腸内細菌」が生息し、夥しい数の腸内細菌が集まって「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれる生態系を形成している。
腸内フローラの乱れが自己免疫疾患や肥満、糖尿病をもたらすことは確かだと考えられている。
万病を防げる可能性を持つ腸内フローラはどうすれば“開花”するのだろうか。専門家がまず口を揃えるのは「食生活の改善」だ。国立精神・神経医療研究センター神経研究所特任研究部長の山村隆氏が解説する。
「間違いないのは食物繊維の多い食生活です。私たちが診てきた患者さんのなかに肉の脂肪を減らして玄米食やキノコを多く摂るようになって症状が改善された方も何人かいらっしゃいます。多発性硬化症にならなかった人は、なった人より食物繊維やビタミンの摂取が多く、脂肪や砂糖の摂取が少ないというカナダの調査結果もあります」
だが腸内フローラは乳幼児の頃に体内に取り入れた常在菌の種類や量に左右される部分もある。そこで研究が進むのが、「便微生物移植(腸内細菌療法)」だ。