「ナマの日本美術を観に行こう」のコンセプトで始まった大人の修学旅行シリーズ。今回は画家・熊谷守一の没後40年を記念して開催中の大回顧展を、美術史家の山下裕二氏引率の下、生徒役のタレント・壇蜜が訪れた。
一見ユーモラスで、苦もなく描いたかのように見える作品に隠された創作の秘密とは何か。97年の人生を生き抜いた孤高の画家の作品世界をめぐる。
壇蜜:わっ、黒とオレンジで三毛猫みたい! もしかして先生のそのシャツ、『猫』(1965年 愛知県美術館 木村定三コレクション蔵)の絵を意識していますか?
山下:さすが猫好きの壇蜜さん。僕も猫好きで熊谷守一の猫の絵は大好きなのですが、特にこの作品は飼っていたトロという三毛猫にそっくりで愛着があるんです。
壇蜜:私も自宅で1匹、実家で2匹飼っています。一連の作品を観ると、どれだけ猫を観察して描かれたのかがよくわかりますね。寝そべった時のお腹のたわみや尻尾の垂れ下がり具合など、“そうそう、猫ってそうだよね”という特徴がしっかり捉えられていて。肩甲骨のラインも猫そのものです。
山下:『牛』など、動物の肩甲骨を描くのが得意ですね。この描写があることで一気に動物感が出る。
壇蜜:すごくリアルなのに筆跡は流れるようで迷いがない。こんなにもスーッとなめらかに描かれた油絵を、私はあまり知りません。
山下:『猫』は85歳、『牛』は75歳といずれも晩年の作品です。明るい色彩でシンプルに描かれた小動物の作品が人気ですが、その作風は波瀾万丈の人生で守一自身が獲得したもの。没後40年の回顧展となる本展では、激動の人生とともに作品を辿ることができます。