動物行動学研究家の竹内久美子さんが久々に登場! 天災が忘れた頃にやってきたのは今は昔、当節はかわりに不倫騒動が巻き起こる。彼らが世間に、配偶者についたウソは果たしてヒト由来のものなのか。動物行動学の見地から徹底考察する。
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新年早々、不倫騒動が昨年に引き続き世間を賑わせている。興味深いのは、当の本人たちがホテルや旅館で一夜を共にした事実を突きつけられても尚、「打ち合わせをしていただけ」「やましいことは全くない」などと言い逃れをしていることだ。
どうしてこんなバレバレのウソをつくのかと不思議に思うが、その一方でウソをつくことこそが人間ならではの高等能力だともいえる。
しかし、たとえば目下大ブームとなっている猫はどうか。猫と生活を共にしたことのあるかたなら(私もその1人だ)、いろいろと思い当たるふしがあるだろう。
猫が聞こえないふりをする、わからないふりをする、薬をごくんとのみ込んだふりをする、構ってほしくて体調が悪いふりをする、そして高いところに登ろうとするなど、何かをしようとして失敗したときに毛づくろい(グルーミング)をして、「あれっ、私、そんなことやろうとしましたっけ」としらばっくれて、ごまかす。
最後の例のように、何らかの行動に失敗したり、眠りや遊びを中断させられたりして、物事が成就しなかったときなどには、グルーミングのような転位行動をしてストレス軽減をはかっているのである。転位行動というのは、動物が緊張状態から抜け出すために行う、その状況とは無関係な行動のことである。
◆「噛んでは いない」手話でウソをついたココ
猫の転位行動としてはグルーミングの他に、わざとらしいあくびやマウンティング(どちらかが他方に馬乗りになること)も含まれる。マウンティングはもともと、順位の確認や優位性の誇示のためにほ乳類で広く行われる。しかし、少なくとも猫ではストレスの軽減のための転位行動としての役割もあるというわけなのだ。
犬も猫と同じように、仮病をつかい、ケガしたふり、いたずらをしても、「自分じゃないよ」というふりをする。ご主人に向かって吠えてしまうという大失態を犯した場合には、素早く別の方向を向いて吠え続けるといった、ごまかしをする。
そして何かに失敗したときなどの転位行動としては、わざとらしいあくびや、自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回るなどの行動をとる。
ごまかす、何かのふりをする、失敗したら転位行動をとる、などの点で猫と犬はよく似ている。
しかしこれらは「ウソ」と呼べるのか、というと何とも微妙だ。
もしも「ウソ」を、「事実とは異なる情報をにおわす」と定義すれば、猫も犬もウソをつくことになるだろう。しかし「事実とは異なる情報を、高度なコミュニケーション手段によって伝える」と定義すると、残念ながらアウトということになってしまう。
そこで登場するのは、高度なコミュニケーション能力を潜在的に持ちながらも、現実には発揮するに至っていない動物たちである。