第24回「小学館ノンフィクション大賞」の選考会が昨年12月中旬に開催された。「終活」の最新事情や海外潜入ルポなど力作揃いの最終候補5作品の中から、辺境の島に残る知られざるキリスト信仰の実相に迫る作品が大賞に選ばれた。広野真嗣氏による受賞作は今春にも単行本化される。
【受賞作品のあらすじ】
6月にバーレーンで開かれるユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会でリスト入りが期待されるのが、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」だ。だが、長崎県が作成したパンフレットから「最後のかくれキリシタンが暮らす島」の存在が密かに消されていた。〈潜伏キリシタン〉と銘打つなら光が当たってよいはずの存在が、なぜ“消された”のか──。本作はその謎に迫りつつ、消滅の寸前にある独特の信仰を守る人々の「いま」を記録した。
長崎県平戸市の西端に位置するその島の名は「生月島」という。1550年、宣教師フランシスコ・ザビエルが上陸し、島主の改宗に島民が従った。バテレン追放令を発した豊臣秀吉が長崎で26聖人を処刑したのが1597年。その2年後から生月も禁教が進められるが、島民は家の納戸の中にイエスやマリアの聖画を祀って密かに祈りを続けてきた歴史がある。
ところが現在の生月島に取材に赴くと、明治以降に建てられた教会群が観光資源化されている長崎市内とは別世界。殉教聖地の通路に半年前の荒天で落ちた巨石が放置されるなど、寂れたままにされているのだ。
一方で信仰は独特の魅力を放つ。実に40分にも及ぶラテン語混じりの長いオラショ(祈り)が、教典なしに暗記で400年も伝誦されてきたという。修道士の“苦行の鞭”をまじないに用いる風習や古老が語る神秘体験に、カトリックと異なる宗教意識も垣間見えた。
現代の目線からは奇異に映る習俗を一部のカトリック系の研究者は「キリスト教とは別物」と断じ、江戸期の信仰と切り離す含意を込め「カクレキリシタン」という蔑称で呼んでいる。この冷たい視線は意外にも、『沈黙』で名高いカトリック作家、遠藤周作にも共通していた。
昭和初期には1万人近くいた信徒も今は300人を切る。再び注目を集める今、現代のかくれ信徒たちが伝統の意味を語り始めた。