税制改正によって起きている、サラリーマンへの増税が話題だ。年収850万円を超えると増税になるという基準がおかしいと批判も浴びている。経営コンサルタントの大前研一氏が、このサラリーマン増税を批判する。
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昨年末に閣議決定された2018年度の税制改正大綱で、年収850万円を超えるサラリーマンと同1000万円を超える公的年金受給者は2020年1月から増税されることになった。さらに、国際観光旅客税や森林環境税が創設され、たばこ税も1本あたり3円増税される。その一方で、法人税は、賃上げをしたり、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などに投資したりすると、最大20%程度まで減税が可能になる。
政府・与党は、この税制改正法案を今国会に提出し、3月末までの成立を目指すというが、なぜ、こんなバカげたことをやるのか、私は全く理解できない。自民党の政治家や官僚たちは、サラリーマンの生活実態も世界の趨勢も、残念なほどわかっていない。
今回の税制改正(改悪)では、全納税者が対象の基礎控除を一律10万円引き上げる一方で、サラリーマンを対象とした給与所得控除は10万円減額する。ここまでならサラリーマンも差し引きで変わらないが、これに加えて給与所得控除の控除額の上限も引き下げるため、年収850万円超のサラリーマンが増税となる。
日本の政治家や官僚は「年収850万円=高所得」という認識のようだが、世界では今や年収850万円は決して高所得とは言えない。たとえば、グーグルやマイクロソフトのエンジニアの初任給は年収1700万~1800万円、インドの優秀なエンジニアの年収は約1500万円、アマゾンが計画している第二本社の新規採用5万人の年収は平均で約1130万円、日本で大学新卒者を月給40万円で募集して話題になった中国のファーウェイ(華為技術)深セン本社の優秀なエンジニアの年収は約1000万円だ。
しかも日本の場合、年収850万円でも税金や社会保険料などが差し引かれると、手取りは月に40万~50万円台になる。東京都内で4人家族が住める広さの住居だと住宅ローンの返済か家賃に20万円前後かかるから、他に食費や光熱費、水道・下水道料金、通信費、教育費などを払ったら、ほとんど余裕はなくなるだろう。年収850万円は、決して裕福ではないのである。