東京は西新宿3丁目にある『根本酒店』は、昭和30年代の創業とともに角打ちを始めている。
体全体から話好き、世話好きのオーラを放ちまくっている3代目の猪熊正二(64歳)、真理子さん夫妻が、温かい笑顔で応対してくれた。
「祖父が店を起ち上げました。このあたりは角筈(つのはず)、淀橋と呼ばれていた所で、副都心のシンボルだった3つの超高層ビルもまだ建っていない時代ですね。ここからちょっと離れた場所、有名だった球形ガスタンクがまだ円筒形だった頃、そのすぐ前で開業したんです。当時の酒屋さんで角打ちは当たり前でしたよ」
さらに猪熊さんの話は続く。
「東京五輪(昭和39年)の際の区画整理で、現在の地に移転したんですけどね。これは冗談ですが、昭和59年にゴジラ襲われて(編集部註:映画のシーンの話)、このあたりがめちゃめちゃになったんですよ(笑い)。そんなこともあって、角打ちを一度中断したんですが、翌年に復活させました」と茶目っ気たっぷりに笑う。
店はビルの1階角。「立ち飲み駄菓子酒屋」と書かれた竹製の看板、数個の小さな赤ちょうちん、振り子の止まった柱時計(実は電波時計で、正確に動いている)などが飾られた、ちょっと派手めな入口の脇、配達用のワンボックスカーが駐車している間をサラリーマンが連れだって入って行く。
「彼らはみんなうちの部活のメンバーで、この奥が部室になっているんです」
猪熊さんの言葉に、こちらは目にも脳にも?マークが。
「単に角打ちとか立ち飲みと呼んだんじゃ、なんだかまとまりや、温か味が感じられないでしょ。そんなわけで、ここで角打ちするお客さんはみんな『立ち飲み部の部員』てことでね。飲む場所を『部室』、飲むことを『部活』と称しています。もちろん皆さん、未成年じゃないですよ」(猪熊さん)。