高齢者がペットを飼えなくなる問題が多発しているといわれる今、記者の母(83才)もまさにその状況に陥った。しかも困ってから慌てて里親を探し、つらい別れをさせることになった。私自身、今も悔やんでいる。そこで高齢者介護とペット分野両方のプロ、倉田美幸さんに、高齢者とその家族が知っておくべきことを聞いた。
「ペットの癒し効果はいうまでもありません。動物をなでることで血圧の上昇を抑え、“幸せホルモン”と呼ばれるオキシトシンが分泌されることが知られています。ストレスを緩和し、孤独感を癒す効果もあるといわれています」と倉田さん。
この効果を生かしたアニマルセラピーも知られている。
「そして介護の現場で見ると、世話をされる側の高齢者にとって“お世話する対象”の存在はとても大きいのです。かわいいもの、守るべきものは高齢者の心には強く刻まれます。私のいた介護施設でも、認知症で嫁や介護職員のことを忘れても、たまに来るセラピー犬のことは孫同様に名前まで覚えていて、反応する人が多かったですね(笑い)。
ペットのために散歩に行かなきゃ、エサを食べさせなきゃと気持ちが前向きにもなります。認知症などがあると食事や起床時間がいい加減になりがちですが、ペットのおかげで時間軸がしっかりします。また、特に男性は近所づきあいができずに孤立することがありますが、ペットを連れていると気軽に声をかけてもらえ、交流が深められます」
愛らしい動物たちの表情に心惹かれ癒されるのは、空前の犬猫動画ブームでも明らか。だからこそ、ペットを飼う現実が見えにくくなる側面があると倉田さんは言う。
「ペットはお世話される側。心は癒しても安全を確保してくれるわけではありません。特に高齢になってから飼い始めるのはリスクが高い。飼い主が病気になったり亡くなったりしたら、ペットは生きていけないのです。
ペットショップなどで販売されている生後間もない子犬もすぐに成長し、世話や散歩などにかなりの体力が必要になります。エサ代、医療費などのコストもかかります。また今は公衆衛生の面から、しつけ、不妊・去勢手術、狂犬病などのワクチン接種を行い、最期まで責任をもって飼育することが高齢者にも求められます。
最近は犬猫の寿命も延び、15年近く面倒を見ることもあるので、核家族の多い現代は飼い始める年齢も考えなければなりません。高齢者だけの世帯や独居の場合は、事前の覚悟や準備、家族の介入が不可欠です」
確かに母が若いころには野良犬もいて、飼い犬との境目はもっと曖昧だった。勝手に近所に放つ“行ってこい散歩”もあったらしい。この意識の違いをフォローするには家族の援護は欠かせない。
◆しつけ、避妊、ワクチン。ルールの大切さを知って
リスクを考えると高齢者がペットを飼うのは難しい。飼いきれなくなったペットが捨てられ、保健所で殺処分になっているというニュースも暗い影を落とす。ただ、「だから高齢者がペットを飼うのはNGだと、簡単に終わりにしないでほしい」とも、倉田さんは言う。