2040年、年間の死者数は168万人のピークを迎える(国立社会保障・人口問題研究所の推計)。そんな少子高齢多死社会の到来を前に、政府は「病院完結型」から「地域完結型」へ、つまり病院から在宅へと医療の方針を大転換。現在、74%超の人が病院で亡くなっているが、その“常識”が大きく変わろうとしている。
人生の最終段階で望んだ医療を受けられるよう、延命治療の是非やどこで最期を迎えたいかなど、患者や家族、医療者が繰り返し話し合うべきだという指針を今年度中にも出す。その背景について、著書『なんとめでたいご臨終』が3万部を超えるベストセラーになっている在宅医療の名医、小笠原文雄さんはこう解説する。
「これまでは患者が『最期は家で暮らしたい』と望んでも、家族が入院させてしまうこともありました。しかし、『本人の願いを叶えることが大切だ』という認識が広がってきたことで国が動き出したのです。患者や家族、医療者やケア提供者が今後の方針について話し合うことをアドバンス・ケア・プランニング(ACP)といいます。私の医院では15年程前から実践していますが、在宅医療を始めた時は『最期は入院したい』と言っていた人も、死が迫ってくると『最期まで自宅にいたい』と気持ちが変わることが多い。だからACPは時間をおいて繰り返し行うことが重要です」
本書には、自宅に戻りたいと願う入院中の患者さんに「そんなことは無理だ」と反対する家族を、小笠原さんが家族の介護力は必要ないことなどを丁寧に説明し、患者さんの希望を叶える様子も克明に書かれている。
50%超の人が自宅で亡くなりたいと望んでいるといわれているが、最期まで自宅で暮らす利点は大きいと小笠原さん。
「かつてはひとり暮らしの人が自宅で死んだら孤独死、病院でこそ最良の治療が受けられると信じられていましたが、たとえひとり暮らしの人でも、なんとめでたいご臨終を迎えられるのは自宅なのだと実感しています。『ところ定まればこころ定まる』と私はよく言いますが、自宅に帰ると笑顔が戻って、余命宣告を覆して長生きするかたも少なくありません」
本書を読んだ人が一様に驚く、大切な人を看取った直後に、家族がご遺体を囲んでみんなで撮る「笑顔でピース」写真。それは患者さん本人が望んだ家で最期まで穏やかに過ごせたからこそ生まれたものなのだ。
「実は今日、余命3か月、81才のひとり暮らしのかたの在宅ホスピス緩和ケアを開始しました。私の本を読んでくれていた付き添いの娘さんが帰り際に『先生、笑顔でピース、しないんですか?』と言うので写真撮影したんです。私が『練習だね~』と笑うと、『そんな、亡くなった時に笑顔でピースなんかしませんよ』と。