書には、先達の知恵、喜びや楽しみ、苦しみや悩みが詰まっている。歴史学者で東京大学名誉教授の山内昌之氏が、人生を学んだ3冊を紹介する。
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私は北海道大学の「文類」(文系学部に進む枠。当時)に入学後、いろいろと迷いもしましたが、事物を具体的な文脈で考えることが好きで中学生の時から『史記』を愛読していたこともあり、歴史学への関心を深め、文学部史学科へと進み、以来今日に至っています。
しかし、年老いるに従い、果たしてそれで良かったのかと、夢にまで見るのです。率直に言って、文学部は男子が一生を捧げるに相応しいところなのかと、自分の選択をいつも懐疑的に振り返りました。人生の選択を先に延ばし、社会との関係の選択も曖昧にしておく。文学部にはそういうモラトリアム的な側面がつきまとうからです。経済や法にも関心があり、早く大学を卒業して社会のために役立ちたいという願望もあっただけに、実業や役人の世界に入っていたら、どうなっていただろうかと、つい想像するのです。
その一方、東大教授を辞めて実社会にいる人達と接してみると、世の中に役立つ物やサービスを提供できる喜びや楽しみに満足を感じ、失敗すれば苦しみや悩みを味わっていることがわかりました。人はそうした様々な思いについて理解するために本を読むのですが、苦悩や悲喜は文学部の学問が扱う領域です。とすれば、文学部も長期的には世の中に役立っているのかとも考えました。
私が大きな影響を受けた本としてここに挙げる3作には共通点があり、それはいずれもが、人生における苦しみや悩み、喜びや楽しみなどを深く感じさせる書物だということです。しかも、抽象的にではなく、自分自身が経験した歴史や人生、生活の中で具体的に語っているのです。いずれも大学に入った頃に初めて読み、以来、折あるごとに読み直しています。